子供ひとりに1千万円を給付:韓国企業による少子化対策への「直接的な財政支援」
日本でも大きな社会問題となっている少子化だが、韓国はさらに深刻な事態に直面している。
CNNによると、2022年の韓国の合計特殊出生率は0.78であり、世界最低の値を記録したのだ。ちなみに、現在の人口を維持するために必要な合計特殊出生率は2.1だとされている。
世界経済フォーラムによると、韓国の出生率の低さは同じく少子化に直面している他国と比べても際立っているのだという。実際、例えばスペインでは1.23、イタリアは1.24、日本は1.34という値だ。
専門家によると、韓国の出生率はこれからも減少が見込まれるのだという。こういった危機的な状況を受けて、韓国では子供をもうけた従業員に1,000万円以上の補助金をだす企業があらわれた。
Euro Newsによると、2月26日、ソウルに拠点を置く建設大手、富栄(ブヨン)グループが従業員に子どもがひとり生まれるたびに1億ウォン(約1,100万円)を支給すると発表したという。
CNNによると、富栄グループのイ・ジュングン会長は自社の従業員にとって金銭的問題が子育ての障害とならないよう「直接的な財政支援」をしたいと述べたという。
イ会長は会合で、従業員にこう語った:「我が社が出産を奨励する企業として知られることを望んでいます。この国の将来も懸念しています」
この施策は男女を問わず適用されるという。また、プレスリリースによると、同社の広報は低迷を続ける韓国の出生率改善のために最善を尽くしたいとも述べたとされる。
プレスリリースによると、同グループ創業者のイ・ジュングン会長はこう語ったという:「もし現在のような低水準の出生率が継続すれば、労働人口の減少や防衛力の低下など国家存亡の危機に直面することになる」
CNNによると、3人子どもをもうけた従業員は現金3億ウォン(約3,400万円)か、賃貸住宅(政府が建設用の土地を提供した場合)への入居かを選べるのだという。
だが、そもそもなぜ韓国の出生率はこれほど低いのだろうか。そしてそれは、高額の補助金があれば解決する問題なのだろうか。
CNNが取材した専門家によると、韓国で出生率が低下している背景には養育費の高騰や父親による子育て参加の不十分さ、家族に関する価値観の変化などさまざまな要因が存在するとされる。
イ・インシル朝鮮半島人口動態研究所所長はEuronews Nextにこう語っている:「人間には種の保存と自己保存というふたつの異なった本能があります。自己保存が困難になってきている現在、種の保存に割く余裕がなくなってきています」
イ所長はさらにこう続ける:「単純化してしまえば、将来の見通しが立たないということが最大の問題です。子供を作る上で計画性は不可欠ですが、人々は厳しい競争社会を生きており、子供がいる未来を考えることができないのです」
世界経済フォーラムによると韓国政府はすでに少子化対策の補助金制度を導入しており、子供ひとりあたり毎月100万ウォン(約11万円)が支給されるという。
だが、こういった潤沢な補助金制度も出生率の改善にはつながっていない。EuroNewsによると、企業の危機感も高まりつつあるため、富栄グループと同様の制度を導入する企業も今後は増えていくというのが専門家の見解だという。
イ所長はEuroNewsにこう語っている:「企業にとって最も重要なのは労働力ですよね? 従業員の確保も難しくなってきていますし、消費者の減少も懸念されています」
イ所長はこう続ける:「人口が減少するにつれて、企業の危機感も高まるでしょう。企業の側が『我々にできることはなにか?』と考え始めたんだと思います。今後、こういった制度を導入する企業は増えていくと考えています」
韓国における政府や企業の試みが功を奏するかは、時間が経ってみないとわからない。だが、子供を持ちたくても持てない夫婦にとっては、問題は金銭的なものだけではないのかもしれない。