外国企業の撤退を阻止しようとするロシア:各社は対応に苦悩
ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、大小さまざまな外国企業がロシア市場からの撤退する意向を表明。しかし、その程度は企業によって異なり、完全に業務を停止する場合もあれば、プロジェクトの中止や投資削減にとどまる場合もある。
いち早くロシア市場から撤退した大手企業にはマクドナルド社やアディダス社がある。一方、開戦から1年あまりが経った今もなかなかロシアから撤退することができない企業もある。
ロシアからの撤退を望む企業にとって主な足枷となっているのは、企業流出を阻止しようとするロシア当局の政策だ。
AP通信によれば、ロシア市場からの撤退を希望する企業は行政委員会やプーチン大統領から直々に許可を得る必要があるのだという。
ロシア当局はさらに、撤退を計画する外国企業に対し事業売却価格の値下げを強制したり、税率を引き上げたりしているようだ。AP通信によれば、多くの企業はロシア当局による「撤退を戒めたり思いとどまらせたりしようという試み」と西側諸国の世論の間で板挟みになっているという。
また、AP通信によればロシアでは最近、撤退を決めた企業に対し10%の税金が課されるようになったという。なお、この税収は直接、ロシアの国庫に入るという。これによって、西側諸国の制裁措置に違反せず撤退することは困難になった。
『ワシントン・ポスト』紙によれば、ロシア財務相は2022年12月に10%の撤退税を発表した際、外国企業の資産を半額で強制的に買収する可能性についても触れたという。
『ニューヨーク・タイムズ』紙のリズ・オルダーマン記者は今年3月、「多くの企業にとってロシアからの撤退は予想以上に困難だ。ロシア当局が国有化の可能性などを振りかざし、企業を束縛しているのだ」と書いている。
同記者によれば、一部企業はロシア市場から撤退すれば資産数十億ドルを没収され、株主に不利益を与えてしまうとして、業務継続を正当化しているという。
大手タバコ会社フィリップモリスのCEOは2023年2月、ロシア市場からの撤退を検討したものの買収元が見つからず、株主資産25億ドルを失うわけにも行かないため撤退できないと発表。
『フィナンシャル・タイムズ』紙によれば、フィリップモリス社のCEOヤツェク・オルチャクは「株主の資産は私のものではありません。私は彼らに代わって運用しているだけです」とコメントしたという。
オルチャクはさらに、「買収元が見つかっていれば、売却することもできたはずです。しかし、買い取り手は現れませんでした。そこで、現状維持を選択したわけです」と説明した。
『フィナンシャル・タイムズ』紙によれば、フィリップモリスがロシア市場から撤退しないのは、外国企業がロシア国内で資産を売却する際にはロシア当局がその価値を決めるという法律があるためだという。
オルチャクは「私自身の進退はきわめて些細な問題です。問題は、去年から撤退を試みているのに埒が明かないということなのです」としている。
イェール大学経営大学院によれば、ロシアで事業を展開していた外国企業のうち1,000社あまりが業務停止または撤退を決めたとされる。
一方、のこりの各社もロシア市場での業務を続けながら時間を稼いだり、不利益を被ることなく撤退するために事業を縮小したりしているとのこと。