危険を冒してでもウクライナ側についたロシア人たち
ウクライナ領内で戦闘を拒否するロシア兵たちの存在が知られ始めているが、ウクライナ側に立って参戦したロシア人たちについてはあまり知られていない。これはロシア当局から反逆行為とみなされる恐れのあるきわめて危険な決断だ。
『タイム』誌は、ウクライナ側に立って戦闘を行っているロシア人が少なくとも数百人いるようだと報じた。自国の軍隊と矛を交えることを選んだ彼らは、一体何者なのだろうか?
写真:UATVのスクリーンショット
どうやら、彼らの正体はウクライナ軍の捕虜となりウクライナ支持に転向したロシア兵と、反体制派ロシア人の混成部隊らしい。今回は、祖国に反旗を翻したロシア人たちの声をクローズアップしよう。
ガスプロムバンクの前副総裁、イーゴリ・ヴォロフエフはロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、母国のやり方に反対する立場を鮮明にしている。
写真:Odesa Film Studioのスクリーンショット/ YouTube
ヴォロフエフ(50)は『ガーディアン』紙に対し、次のように語っている:「戦争勃発を知り、すぐにでもウクライナ防衛に駆け付けたいと思いました」
写真:CNN放送のスクリーンショット
ウクライナ、スームィ州育ちのイーゴリ・ヴォロフエフは、ゆかりの地でウクライナ領土防衛隊に加わるべく、ロシアを出国してウクライナに向かった。しかし、数週間にわたって入隊を試みた結果、ロシア人が合法的に参戦する術はないことが明らかになった。
しかし、ヴォロフエフはすぐに別の方法を見つけた。「自由ロシア軍団」への参加だ。この部隊はロシア国民だけで構成されているが、ウクライナ軍の一部を成している。
写真:Yeremeev.d - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=118076053
ウクライナ防衛を自分の任務だと考えるヴォロフエフは、参戦の機会を手にして喜んでいる。6月11日、自動小銃を携えた姿でビデオに登場し「最初の目標を達成できてとてもうれしい。ただちに訓練を受けて戦地に赴くつもりだ。中途半端でやめるわけにはいかない」とコメントした。
また、ヤンと名乗る30歳のITエンジニアも母国に反旗を翻し、ウクライナの味方についた1人だ。ヤンは『タイム』誌に対して「私はロシアによる侵略に反対し、ウクライナを防衛するためにここに来た」と答えた。
「ロシア軍は武装したまま国境を越えるべきではなかった」と『タイム』誌に語るヤン。2月の開戦以来、ウクライナ領土防衛隊で活動している。
アナーキストだというヤンは、プーチン政権に対する抗議行動に参加したことがあるという。しかし3年前、事務所が当局による強制捜査を受けたため、ウラル山中に身を隠した。
ヤンは最前線のウクライナ兵たちに医薬品を届けているほか、偵察を行い、重砲のターゲットを特定するなどといった戦闘支援を行っている。
ヤンは『タイム』誌に対し、彼が所属するウクライナ領土防衛隊の40人規模の小隊にも、ロシア人が複数加わっていると語っている。いわく「ウクライナ全土にかなりの数の同胞たちがいる」とのこと。
ヤンによれば、多くの場合、ウクライナ兵たちはウクライナ側にたって戦うロシア人に好意的だという。しかし、心無いジョークを浴びることもないわけではない。
写真:自由ロシア軍団の旗と徽章(自由ロシア軍団 / YouTube)
しかし、ヤンは『タイム』誌に対し「ウクライナは大きなトラウマを経験しているのだから、無理もない。その気持ちは理解できるし、私はそんなことで気分を害したりしない」と述べている。
『タイム』誌はまた、クレムリンとの対決を続けるためにウクライナ側に立って参戦した「ヴィーチャ」と名乗る25歳のロシア人学生(政治学)を取材した。
モスクワ育ちのヴィーチャは10代のころから反体制派の抗議活動に参加し始めたという。両親にはウクライナの人々を助けるため献血しに行くと説明しており、実際にそこで何をしているのかは知らせていないそうだ。
キーウに駐留中のヴィーチャだが「母国は好きだよ。この戦争で体制が変わることを期待している。いつか家に戻りたい」と話している。
参戦まではせずとも、その他の方法でウクライナ支援を行っているロシア人たちもいる。『ガーディアン』紙は、モスクワ市の野党議員だったマキシム・モティンに取材を行った。
『ガーディアン』紙のインタビューに対し、長年、政治活動によってロシアを内部から変えようと試みてきたと語るモティン。しかし、2018年に当局からの脅迫を受けたことで、亡命を余儀なくされたという。
4年間キーウで暮らしたモティンは戦争が勃発すると、ヘルメットと防弾チョッキの生産ラインを立ち上げることでウクライナ軍の支援をすることにした。
モティンは『ガーディアン』紙に対し、次のように語っている:「とりわけ開戦直後に防弾チョッキの需要が高まりました。すでに700人分以上のチョッキとヘルメットを製造しました」
さらに「私はロシアの血なまぐさい体制や戦争を支持する国民に親近感を抱くことはできません。ロシアは戦場で打ち負かされる必要があると思います」
しかし、ロシア人でありながらウクライナ支援に回るのは危険が付きまとう。モティンは最近、ロシア当局からテロ資金供与をはじめとする2つの罪状で刑事告発されていることを聞かされたという。