南極に広がる「スウェイツ氷河」の融解がもはや後戻りできない段階に
最近の研究により、南極大陸に広がる「西南極氷床(にしなんきょくひょうしょう)」はもはや後戻りのできないところまで融解が進んでいると伝えられた。この氷床には、米フロリダ州並みの面積をもつスウェイツ氷河も含まれている。
2023年に西南極氷床における氷床量が大きく減少したことをうけ、研究者達は21世紀における急速な融解がもはや避けられないとみる論文を『ネイチャー・クライメート・チェンジ』誌に発表した。
論文の共著者で、西南極氷床の専門家である英国南極調査局のケイトリン・ノーテン博士は、「残念ながら良いニュースとはいいがたいのですが......」と昨年10月に記者団に対して口を開いた。ABCニュースが伝えている。
「実施されたシミュレーションによれば、今世紀の残りにかけて、海洋の温度上昇と棚氷の融解が急激に加速することになるでしょう」
研究者たちは最良のシナリオと最悪のシナリオの両方をモデル化したが、いずれも氷床の急速な融解が不可避であることを示した。ノーテン博士は、2つのシナリオに大きな違いはないとしている。
「この数十年の間に、西南極氷床の融解は制御不能になってしまいました」とノーテン博士は記者団に語った。西南極には広大なスウェイツ氷河があることから融解が進めば海面が3m上昇し、地球に破滅的な影響を及ぼしかねない。
スウェイツ氷河は、完全に崩壊すると壊滅的な海面上昇をもたらすことから「終末の氷河」と呼ばれている。すでに2023年初頭に、この氷河に関する心配な報告が伝えられていた。2つの別々の研究が、融解の速さを警告していたのだ。以前の予測よりはるかに速く融解していることが判明したが、じつは10年以上前からスウェイツ氷河は懸念される兆候を抱えていた。
ペンシルベニア州立大学のシュリダール・アナンダクリシュナン教授は、2021年にWEBサイト『Mashable』でこう語った:「南極大陸のスウェイツ氷河は、今後数十年の間に膨大な量の水を海に放出する可能性があります」
画像:Twitter @PSUEars
アナンダクリシュナン教授は氷河学の教授であり、氷河地震学者として気候変動が南極とグリーンランドの氷床に与える影響について専門的な研究を行っている。そしてスウェイツ氷河を10年以上にわたって研究している。
画像:Twitter @PSUEarth
同教授は2010年に、スウェイツ氷河の融解のスピードが、冬季の氷の成長のスピードとバランスがとれなくなっていることに気づき、すでに指摘を行っていた。
同教授は2010年のインタビューで『Science Pole』の極地研究者ジャン・デ・ポムロウにこう語っている:「最近まで、スウェイツ氷河の融解と崩壊による質量損失は、氷河表面の降雪量とつり合っていました」
アナンダクリシュナン教授は続けた:「つまり、氷河が海から取り込む水量と、海に放出する水量がほぼ同量になっていたのです」
「ところが、ここ数十年の間にそのバランスが変化し、融解と崩壊によって失われる質量は、氷河形成により加わる質量よりも大きくなっています」同教授は研究者のポムロウに語った。
さらにアナンダクリシュナン教授は、スウェイツ氷河の体積が減少することは、世界の海面上昇につながっていると付け加えた。しかし、2023年までにこれほど状況が悪化するとは、アナンダクリシュナン教授でさえ予測できなかったのだ......。
2月15日付けの科学誌『ネイチャー』で発表された2つの新しい研究によると、スウェイツ氷河に深い亀裂が生じたことで、これまで考えられていたよりも急速に融解が進んでいることが明らかになった。
研究の一つはこう結論付けている:「この結果は、海水準予測に使用される氷棚基底融解の標準的なモデルでは、この極めて重要な氷河の下で観測された融解速度を的確に捉えられないことを示しています」
「スウェイツ氷河は、すでに急速かつ不可逆的な氷の喪失状態に入った可能性があります」さらに、本研究の執筆陣はこう加えた:「数世紀以内に完全に崩壊すれば、世界の海面が65㎝上昇します」だが、それを上回る最悪のケースも起こりうるという。
CNNのローラ・パディソンによると、世界の海面が70センチメートル上昇すれば、「世界中の沿岸地域が破滅的な状態に陥るのに十分となる」 という。さらには南極の他の氷河を、同じように融解させる引きがねになりうるという。
パディソンはこう続けた:「スウェイツ氷河は、西南極の周囲の氷に対して天然のダムのような働きもしています......。そして科学者たちは、スウェイツ氷河が崩壊した場合、世界の海面上昇は最終的に3mに達すると見積もっています」
パディソンはこう付け加えた:「数百年あるいは数千年単位の時間がかかる可能性もありますが、棚氷はそれよりも早く崩壊し、不安定で不可逆的な氷河の後退を引き起こす可能性があります」