前代未聞のカン違い環境破壊:フロリダ州沖になげこまれたタイヤ
米国フロリダ州ブロワード郡の沖合に、新たな海洋生物の生息地を生み出すはずが、カン違いで環境破壊につながってしまったエリアがある。ここは「オズボーン・リーフ(礁)」と呼ばれているが、実際はサンゴ礁ではなく何百万本ものゴムタイヤでできている。
WEBサイト「Project Baseline Gulfstream」によれば、オズボーン・リーフはフォートローダーデール沖約2134メートルの海底に広がる人工礁だ。新たな海洋生息地を作り出すことを目的に1970年代に開始されたプロジェクトで、次々と古タイヤが沈められていった。なぜこんなことが起こったのだろう。
これはフロリダのある漁師グループが、より多くの魚を引き寄せるためにフォートローダーデール近郊のサンゴ礁を成長させようと、廃棄される古タイヤで巨大な人口サンゴ礁を作るというアイデアをひねり出したのだ。
前述のWEBサイト「Project Baseline Gulfstream」によれば、人工魚礁を作る計画は失敗におわり、地元の自然環境に甚大な被害をもたらすことになった:「サンゴがタイヤに付着して成長することが期待されていましたが、現在、そうした現象はほとんど起こらなかったことが明らかになっています」
写真:Twitter @ ocen4u
タイヤ礁が失敗した大きな理由のひとつは、タイヤが水中で動き続けていたことだ。タイヤのほとんどはナイロンやスチール製のバンドで固定されていたものの、そのバンドが海水で浸食されたりとれてしまっていたのだ。
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「タイヤが動くことによってそこに付着した生物は成長を阻まれたり、失われたりしました」と前述のサイトが明らかにしている。
写真:Facebook @ ocen4u
こうした事態は嵐やハリケーンでさらなる悪化を見た。とくに天候が荒れた1995年と1998年を経て、当局はオズボーン・リーフのタイヤ撤去計画に着手。しかし多くの人の予想に反し、簡単な作業ではなかった。
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フロリダ州環境保護局のウェブサイトに次のような声明が掲載された:「長年にわたり、多くのタイヤが熱帯暴風雨やハリケーンによって流されていきました。その結果、周辺にあったサンゴ礁に深刻な被害をもたらしました」
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当局によるタイヤ撤去の試みは何度も行われている。声明は「タイヤの存在は深刻な脅威となっていますが、撤去作業の困難さや規模の大きさにより、いずれの機関も単独では対処しきれませんでした」
2007年に過去最大となる撤去作業が実施された。このときは陸軍、海軍、沿岸警備隊からなるダイバーグループが結成され、できるだけ多くのタイヤの引き揚げが試みられた。当時のNPR(米国公共ラジオ放送)の報告書には、1日に約1000本のタイヤを回収したと記載されている。
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陸軍潜水士ジェイソン・ヤコヴェンコが、当時NPRにこう語っている:「6mほど潜ると視界に入ってきます......まるで月面か何かのようでした。見渡す限りのタイヤという、想像を絶する景色が広がっていました」
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ウィキペディアによると、2007年に行われたこの活動は「DiveExEast07」と呼ばれ、約1万本のタイヤ回収に成功した。翌年の回収活動では、およそ14万ドルをかけて4万3900本のタイヤが引き上げられた。大量引き上げに成功したようにもみえるが、全体数から見ればごく一部に過ぎない。
写真:Instagram @ ocen4u
フロリダ州環境保護局は、オズボーン・リーフを作るために投げ込まれたタイヤの数は100万から200万個と推定している。科学技術系のサイト「Psy Org」は入手したデータをもとに撤去されたタイヤの数を推定。これは43万9000から67万7000個程度だが、投棄された総数にはるか遠く及ばないという。
ブロワード郡の生物学者で、タイヤ回収プロジェクトの監督者であるパット・クインが同サイトにコメントしている:「正直に申し上げて今後の見通しは立っていません......おそらくすべてのタイヤ回収はむずかしいでしょう」タイヤは現在、13万7593平方メートルにおよぶ海底に散らばっており、撤去費用が増大しているのだ。
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「Psy Org」の報道によれば、海中からのタイヤ回収費用は、過去5年間1本あたり約18.75ドルに設定されていた。しかし、2028年に契約期限がいったん終了、州と撤去会社との新たな契約では回収費用は1本あたり29.50ドルにまで跳ね上がったという。
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タイヤ撤去プロジェクトの監督者は「Psy Org」にこうコメントした:「人々は自分たちが正しいことをしていると思っていました。ただ、それが実際には機能しないことを認識していなかったのです」回収すべきタイヤは数多く残されているが、「一か所に積み上げられていうわけではない」 ため、作業は困難なものになっているという。