冬の最中にロシア産天然ガス停止:沿ドニエストル共和国の現状
1990年代にモルドバからの独立を宣言した親露派の未承認国家「沿ドニエストル共和国」。しかし、ロシア政府はこの地域の支援を諦めてしまったように見える。
ウクライナがロシア産天然ガスの輸送を今年1月1日に停止した結果、沿ドニエストル共和国では冬の真っ盛りにガスが届かなくなってしまったのだ。
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かつては「スイス化」を目指していた沿ドニエストル共和国だが、今や調理や暖房、発電用の燃料に事欠く事態となってしまっている。
オンライン紙『オデッサ・ジャーナル』によれば、同地では2月初頭にガスの貯蓄が底を突いてしまうとのこと。
沿ドニエストル共和国の住民たちは暖房が利用できず、お湯も出ない状況の中、日常生活を送るので精一杯だ。NPR放送によれば、発電用ガスの不足を受けて行われている計画停電は1日8時間におよぶこともあり、街は闇に閉ざされているとのこと。また、各発電所は石炭発電に切り替えたというが、石炭の供給も潤沢ではない。
また、工場や学校もほぼすべて閉鎖されており、人口3万5,000人を抱える地域社会の活動が完全にストップしてしまっている。
沿ドニエストル共和国における冬の気温は氷点下に達することもあるため、当局は対策として、近隣の森林から燃料となる薪を集めるよう、住民に促している。
同地域のワディム・クラスノセリスキー大統領は住民向けの演説の中で、住民たちは「林に出かけて枯れ木を集めるという重大な責任」を果たしているとコメント。
一方、モルドバはロシア産天然ガスの供給停止を受け、隣国のルーマニアからガスを購入しているが、そのコストは以前の2倍に膨れ上がった。それもあってか、沿ドニエストル共和国はモルドバからの燃料供給を拒絶している。
欧州委員会のアニッタ・ヒッパー報道官はニュースメディア「ポリティコ」に対し、「モルドバ政府は沿ドニエストル共和国にエネルギー支援および人道支援を申し出たと聞いていますが、今のところ受け入れられていないようです」とコメント。
同報道官はさらに、「我々は沿ドニエストル共和国当局に対し、モルドバ政府と協力して事態に対応し、地元住民の利益を守るよう働きかけています」とした。
一方、モルドバのドリン・レチャン首相は、ロシアが意図的に沿ドニエストル共和国へのガス供給を断ったと考えているようだ。
同首相は『ニューヨーク・タイムズ』紙に対し、「ロシアはモルドバを不安定化させるため、30年間にわたってこの保護国(沿ドニエストル共和国)を支援してきたが、これを放棄するようなことになれば、ロシアと同盟関係にある国々に対し、裏切りと孤立を晒すことになるでしょう」とした。
また、モルドバのアレクサンドル・フレンケア元首相は『ニューヨーク・タイムズ』紙に対し、「沿ドニエストル共和国の社会モデルはロシアから供給される無償の天然ガスに依存しています。ロシア産天然ガスがなければ、完全に崩壊してしまうでしょう」とコメント。
しかし、地元住民たちは自分たちが置かれた厳しい状況をロシア当局のせいだとは考えていない。実際、ある住民は『タイムズ』紙のインタビュー対し、「プーチン大統領は絶対に私たちを見捨てません」と答えたほか、「もちろん、ロシアは私たちを死なせたりしないでしょう」と答えた女性もいる。
モルドバは今年、議会選挙を控えており、ロシアによる介入が懸念されている。これについて、モルドバのレチャン首相は「ポリティコ」に対し、「ロシアはエネルギーを人質に取り、地域一帯に安全保障上の危機を引き起そうとしています」とした。