香港の悪名高い「棺桶ハウス」、行政がすすめる住環境改善の対象外に
人口過密が深刻な社会問題となっている香港では、多くの人びとが身動きもできないほど狭い空間で、プライバシーを欠いた生活を余儀なくされている。こうした中、地元当局は住環境を改善するための対策を講じているが、いわゆる「棺桶ハウス」が根絶されることはなさそうだ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、香港政府のトップに当たる李家超(り・かちょう)行政長官は2024年10月、市内の極小アパートについて最低基準を設けると発表。このようなアパートでは通常、浴室やキッチンが居室と一体化している。
同紙いわく、香港ではおよそ22万人(うち4万人が子供)がこのような住宅で暮らしており、格差を浮き彫りにしているとのこと。
このような状況の中、香港当局は極小アパート3万戸あまりを段階的に撤去する方針だ。しかし、ニュースサイト「香港フリープレス」によれば、ベッド1台しかないような「棺桶ハウス」はドミトリーと見なされるため、この政策の対象外だという。
実は、香港が住宅危機の解決を急ぐ背後には中国政府の思惑がある。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、中国政府は2019年に発生した民主化デモについて、住宅難が原因のひとつだったと捉えており、2049年までに極小アパアートを一掃するよう香港市に求めたというのだ。
香港の人口は750万人を突破しているが、市内には住居を建設できるような土地が残されていない。その結果、同市の不動産市場は世界一高騰してしまったのだ。『ナショナルジオグラフィック』誌が伝えている。
しかし、李家超行政長官が打ち出した”極小アパート撲滅”政策については、専門家の間から懸念の声も挙がっている。なぜなら、この措置によって貧困層の家賃が上昇し、住処を追われる人々が増えてしまう可能性がある一方で、「棺桶ハウス」には手が及ばないためだ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、香港における1人当たりの居住スペースは平均6平方メートル強だという。また、不動産オーナーたちはより多くの借り手を住まわせるため、物件を細分化して貸し出しているそうだ。
『ナショナルジオグラフィック』誌が取り上げた例によれば、ある不動産オーナーは35平方メートルの物件を分割し、2段ベッドを20台も設置したとされている。各スペースの家賃は月額200香港ドル(およそ4,000円)だそうだ。
香港市が打ち出した政策によれば、市内のアパートには独立したキッチンと浴室の設置が義務付けられることとなる。しかし、具体的にどのような形で改修を進めるのか、誰がその費用を負担するのかといった点については、今のところ明らかにされていない。