今後、選挙は不要になるというトランプ発言、その真意は?
7月26日、トランプ前大統領は保守派NPOターニングポイント・アクションが開催した「ビリーバーズ・サミット」に出席し、キリスト教徒たちが大統領選に足を運べば、その後は投票の必要がなくなるだろうと発言。その後のインタビューで釈明を試みたものの、支離滅裂だったらしい。
もちろん、トランプ前大統領のこの発言は民主主義の否定と捉えられるものであり、大いに批判の的となった。そこで、FOX放送の司会者ローラ・イングラム氏が7月29日にインタビューを行い、トランプ氏に真意を尋ねることとなった。
しかし、ニュースサイト「ニュー・リパブリック」によれば、トランプ大統領の説明は要領を得ないものだったようだ。けれども、トランプ氏自身は「あの発言はとてもシンプルさ」と結論づけたという。
『ザ・ヒル』紙によれば、トランプ氏は「『私に投票すれば、その後は2度と同じことをしなくて済む』と言ったのさ。なぜなら、有権者に投票を促さなくてはいけないからね。それに、キリスト教徒たちは投票に積極的なグループではないようだ」と説明。
この不可解な説明に対し、司会者のイングラム氏は「つまり、大統領の任期は4年あるので、その間はあなたに投票する必要がないということですか?」と助け船をだした。
しかし、トランプ前大統領の返答は、「キリスト教徒たちはあまり投票に行かない。投票率が極めて低いんだ。なぜだろう? もしかすると、現状に失望しきっているのかもしれないね。そこで、『投票に行かないつもりだろう? ダメだ、投票しなくては』と。会場にいた数千人のキリスト教徒たちに向かって、『だいたい、キリスト教徒って投票に行かないよね』と言ったわけさ」という支離滅裂なものだった。
トランプ氏はさらに、「将来の心配をする前に、11月5日に投票しなければいけない。でも、その後は投票を気にする必要などない。あとは私たちがちゃんとやるからね。この国は立ち直るんだ…… 大いなる愛さえあれば、みなさんの投票なんて不要さ」と言葉を続けた。
。
つかみどころのないコメントだが、任期4年のうちに米国を立て直し、投票の必要がなくなるほどキリスト教徒たちを安心させるというのが趣旨なら、一応、理解できないこともない。けれども、トランプ前大統領は「ビリーバーズ・サミット」で本当にそんなことを言ったのだろうか?
『ローリング・ストーン』誌によれば、「ビリーバーズ・サミット」の会場でトランプ大統領は「信教の自由を擁護する堅実な保守派の判事を再び任命する」という公約を掲げたとのこと。しかし、メディアの注目を集めたのはその部分ではなかった。
ともあれ、トランプ前大統領は郵便投票に関する「根拠のない主張」(『ローリングストーンズ』誌)を繰り返したのち、キリスト教徒たちに投票を呼びかける中で、その後の投票は不要だと発言したという。
トランプ氏いわく:「キリスト教徒のみなさん、投票に行くんだ! 今回だけでいい。その後は投票しなくていいんだ。あと4年間。これで万事解決、うまくいくさ」
トランプ前大統領はさらに、「素晴らしいキリスト教徒のみなさん、今後はもう投票いらず。キリスト教徒のみなさん、愛している! 投票に行こう。4年後にはもう投票しなくていいんだ。万事うまくいくので、投票する必要がなくなるわけだ」とした。
4年後には投票不要になるというこの発言の真意はどこにあるのか、米国ではメディアを巻き込んだ議論に発展。しかし、民主党陣営がトランプ氏は独裁者になろうとしているのだと批判を強めたのは言うまでもない。
『ニューズウィーク』誌によると、民主党全国委員会のジェイミー・ハリソン委員長は、初日だけ独裁者になりたいという昨年12月のトランプ発言に言及し、今後は投票不要というのも真意は同じだと解釈している。
同委員長は「ビリーバーズ・サミット」で演説するトランプ前大統領の動画をX上でシェアし、「1日独裁者がまた、おかしなことを言っている…… 自分が立て直すから、『2度と投票しなくて済む』とかなんとか」とコメントしたのだ。
ハリソン委員長はさらに、「自由は好きかい? だったら、なんとしてでも守り抜かなくちゃ。有権者登録をして投票だ!」と書き、投票を呼びかけた。しかし、トランプ発言に懸念を示したのはハリソン氏だけではなかった。
ワシントン州選出の民主党議員で進歩派議員連盟の会長を務めるプラミラ・ジャヤパル氏も、「まったくひどい。そんなことがあってはなりません」とX投稿。
一方、『アトランティック』誌のブライアン・クラース記者は今回のトランプ発言について興味深い見解を示している。
クラース記者いわく、今回の発言は「米国における民主主義の規範を逸脱」したものであり、「主要政党の大統領候補者が選挙の廃止を声高に主張し、独裁化の兆候を見せる」のは滅多にないことだ。
同記者はこの姿勢について、トランプ氏はアメリカ版習近平になろうとしているのかもしれないと指摘した。もちろん、トランプ前大統領がそこまで野心的ではない可能性もある。
実際、クラース記者も今回の発言を「好意的に」解釈するならば、トランプ前大統領は次回の大統領選が不要になるほどキリスト教徒にとって好ましい政策を実施するとアピールしたかったのではないかとしている。
とはいえ、キリスト教徒たちを満足させる政策がその他の人々に好ましい影響を及ぼすとは限らない。
クラース記者いわく:「いずれの解釈にせよ、結論は同じです。トランプ氏は有権者と政策とのつながりを断ち切る姿勢を通して、権威主義的な傾向をあからさまに見せているのです」
しかし、放言で知られるトランプ前大統領のことである。米国のキリスト教徒たちを味方に付けるため、スピーチ原稿を無視して口から出まかせを言っただけかもしれない。だとすれば、その後の支離滅裂な釈明はライバル陣営による批判を煙に巻く作戦なのだろう。
聴衆を煽って盛り上げるために、場当たり的な発言をするのはトランプ前大統領の常套手段だ。「ビリーバーズ・サミット」でのコメントもその一例に過ぎないのかもしれない。
The Daily Digest をフォローして世界のニュースをいつも手元に