JAXAとNASAが共同で世界初の木製人工衛星打ち上げへ
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が米国のNASAと共同で世界初となる木製人工衛星「LignoSat」をこの夏、宇宙に送り込む計画を立てている。
この計画は京都大学とJAXA、NASAによる国際プロジェクトとして進行中だ。
研究の中心となっているのは、宇宙空間における生体物質の利用を研究している京都大学の村田功二農学研究科准教授だ。JAXAのホームページで公開されているインタビューによると、今回のプロジェクトは元宇宙飛行士で、現在は京都大学の総合生存学館で特定教授を務める土井隆雄から「月面に木製の家を建てたい」という提案があったことがきっかけで始まったのだという。
検討を進めるうちに計画は方向性を変え、現在は木製の小型人工衛星を作ることを目指している。金属の代わりに木材を用いることで、持続可能性も高まることが期待されている。
画像:Jacob Miller / Unsplash
『Space magazine』によると、地球の周囲には8,440トンもの宇宙ゴミが漂っているのだという。機能しなくなった人工衛星やその部品などもそういった宇宙ゴミの一部をなしている。
こういった宇宙ゴミは非常に高速で移動しており、国際宇宙ステーション(ISS)にとって危険な存在となっている。さらに、金属製の部品は光を反射しやすく、地球から宇宙を観測する天文学者にとっても悩みの種だ。
人工衛星の問題は宇宙ゴミだけではない。衛星としての機能を終えたあと、宇宙ゴミとならずに大気圏に突入したとしても、そこで燃え尽きることで微小な金属粒子を大気に残してしまう。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)の研究によると、大気中のエアロゾルの10%ほどが人工衛星や宇宙ゴミ由来の金属粒子を含んでいるのだという。CNNが報じている。
一方、木材は燃焼すると気化するため、大気中に微小な金属粒子を残すこともない。光も金属ほど反射しないし、そもそも安価だ。
村田功二准教授によると、木材は宇宙に最適な素材なのだという。人工衛星の素材として最も一般的なのはアルミニウムだが、木材は比強度(重さあたりの強度)においてそのアルミニウムに近いのだ。
しかも、地上で木材を用いた時に問題となる欠点は宇宙ではすべて無視できる。宇宙には酸素がないので燃える心配はしなくて良いし、水分も生物も存在しないので腐食によって傷むこともない。
研究チームはすでに宇宙空間における木材の耐久試験を成功させている。国際宇宙ステーション(ISS)で10ヶ月間の宇宙空間への曝露試験を受けた木材が今年初めに回収された。
この試験では比較のため3種類の木材(ホオノキ、ヤマザクラ、ダケカンバ)が使用された。これらの試験体が宇宙空間に暴露され、実際の使用に耐えうることが立証されたのだ。
画像:Kim Andre Fladen / Unsplash
JAXAでのインタビューによると、最終的に用いる木材はホオノキに決定したという。曝露実験では顕著な差が出なかったため、決め手となったのはホオノキが「均質で割れにくく、加工しやすい」という点だとされている。
作成する人工衛星は非常にシンプルなものとなる予定だ。形状はコップほどのサイズの立方体で、打ち上げ後少なくとも半年ほどの間モニターすることになっているという。
今回の試みによって木材が宇宙空間で使用可能なことが実証されれば、人工衛星の素材に大きな転換が訪れる可能性がある。また、極限環境での木材の性質が明らかになれば、地上での活用にも応用が可能かもしれない。今後の進展を見守ろう。