ハンガリーで活動を開始する中国警察:欧州干渉への橋頭堡とするか?
中国警察がハンガリーで活動することになった。3月初頭、ハンガリー内務省が発表した。
この決定は、2月中旬にハンガリーのオルバン首相と中国の王小洪公安相が行った会談での合意に基づいたものだ。
欧州各国は、このような決定に至った中国当局の狙いは数多く存在する在欧華人(しばしば中国の現政権に批判的でもある)の行動を監視するためだと見ている。
ハンガリーで生活する中国人はここ10年で倍増しており、およそ18,000人に達している。スロバキアのブラチスラヴァにある欧州アジア研究所で中国とEUの関係を研究するリチャード・トゥルクサニ氏は「中国は(今回の決定で)地元当局を通じた監視よりも効率的な手段を手にすることになる」と語っている。「France 24」が報じている。
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ただし、中国警察の活動の詳細についてハンガリー当局からの発表はなされていない。米シンクタンク「ジャーマン・マーシャル財団」に在籍する中欧専門家ジュジャナ・ヴェー氏は「中国警察の取り締まりがいつ、どこで、なぜ行われるのか、なにもわかっていません」と語っている。同じく「France 24」が報じた。
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中国警察がヨーロッパで活動するのはこれが初めてではない。イタリアでは2015年から2019年にかけて、ローマやミラノ、トリノなどの都市で合同捜査が行われていた。
さらに、EU構成国ではないものの、セルビアは現在も中国警察を受け入れている。ヴェー氏によると、セルビアでの活動は「顔認識ソフトウェアを搭載した中国製監視カメラの購入」といった形になっているという。
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監視カメラ類によるプライバシーの侵害も当然懸念されるが、それ以上に、ヨーロッパにはすでに中国警察の拠点が非合法で多数設置されているという問題が喫緊の課題として存在する。
ハンガリーにおける中国警察の活動は両国の交流を活性化させる目的でも利用されるだろうと見られている。トゥルクサニ氏は、中国政府は「ブダペストで活動する中国警察の写真などを使って、中国人観光客の安全に配慮しているという姿勢をアピールすることもできるだろう」と語っている。
同氏はさらに、ハンガリーのオルバン首相側も「この決定を通じて中国との良好な関係をアピールし、ハンガリーが安全保障政策上、独自の対中外交を展開できるということをEUやアメリカに向けて発信することができる」とも語っている。
ワルシャワ東洋研究所のヤクブ・ヤコボフスキ氏はこう語っている:「オルバン首相は、ハンガリーの未来は東にあると常に語ってきました。21世紀の覇権国家が中国になる可能性に賭けたのです。だからこそ、首相としては、中国との関係を構築して行かねばならないのです」「France 24」が報じている。
オルバン首相は中国政府との親密さを継続的にアピールしている。例えば、仏紙『レゼコー』も指摘するように、オルバン首相はEU諸国の指導者としては唯一、昨年10月に北京で開催された「一帯一路」フォーラムに参加している。
また、オルバン首相は、中国との対決姿勢を明確にするトランプ元大統領とも面会している。
ハンガリーは自身が参加する欧州の各機関において、定期的に中国という外交カードをちらつかせているが、ドイツを筆頭とする経済的パートナーの利益を直接に侵害するような行為は慎重に避け続けている。
オルバン首相率いるハンガリーにとって、この戦略は成功していると言える。中国はすでにハンガリーにとって最大の海外出資国となっているが、今後両国間の経済協力はより緊密になることが決定的だからだ。
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「フランス・アンフォ」が報じているように、中国の電気自動車メーカー「BYD」は最初の欧州工場をハンガリーに設立することになっており、多数の雇用の創出が見込まれている。通信大手のファーウェイや、複数のバッテリーメーカーもハンガリーでのプロジェクトを進めている。
構成国の中に中国との関係をますます強化する国が存在することで、EUは中国による干渉やプライバシーの侵害などのリスクを抱えることになっている。ハンガリーにおける中国警察の活動はいったいどの程度の規模になるのか、注視する必要がありそうだ。
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