中国が130兆円を投じて開発する「人工太陽」が新記録を達成
『サウスチャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)』紙によると、中国の開発した「人工太陽」が圧縮されたプラズマを保持し、超高温状態を7分間保つという記録を達成したという。
同紙も伝えているが、前回2017年の時点では超高温状態は101秒しか保持できなかった。この進歩によって中国(そしてひいては人類)は高効率で低コストな、熱核融合反応の利用へと近づいたという。
中国は以前からこの「人工太陽」の開発を進めており、空に浮かぶ太陽にも比肩するようなエネルギー源として注目を浴びている。
写真:研究プロジェクト初期の様子
太陽にも比肩するほとんど無限に近いエネルギーが利用可能になると言えば、それが全世界に及ぼす影響の大きさは言わずもがなだろう。
中国の「人口太陽」は正式名称をトカマク型核融合エネルギー実験炉(Experimental Advanced Superconducting Tokamak: EAST)という。太陽以上の温度に達することができる核融合炉だ。
新華社通信の報道を伝える『インデペンデント』紙によると、過去には7000万度という高温を17分間維持したこともあるという。これは太陽の5倍近い温度だ。
写真:Unsplash / NASA
この研究の狙いは、現在原子力発電所で用いられている核分裂ではなく、よりクリーンな反応である核融合を利用可能にすることだ。
『スミソニアン』誌で、エリザベス・ガミッロはこう書いている:「核融合はいままでのどんなエネルギー源よりもクリーンになり得ます。核融合は原子核同士を融合させることで巨大なエネルギーを発生させるので、それを電力にするのです。これは太陽で起きている現象と同じものでもあります」
いくつかの国際通信社が伝えているところでは、この研究に中国は1兆ドル(約135兆円)以上の資金を投入しているという。
太陽を再現すれば、実質的に無限ともいえるエネルギー源が手に入ることになる。石炭や天然ガス、石油といった燃料が不要になるのだ。しかも、科学者によると放射性廃棄物もほとんど出ないのだという。
現在この技術においてもっとも先を行っているのは中国のようだが、他にも研究している国はある。
ITER(イーター:International Thermonuclear Experimental Reactor)はアメリカ、EU、中国、ロシア、日本、韓国、そしてインドなどが共同で核融合エネルギーの利用を研究するための実験施設だ。このプロジェクトには総計で35の国が関わっている。
ITERは南仏プロヴァンス地方に存在し、2025年からの稼働が予定されている。
核融合発電の推進者によると、核融合は反応自体から発生する放射線も少なく、高レベルの放射性廃棄物もほとんど出ないため、核分裂よりも安全なのだという。
メルトダウンのリスクもないため、チェルノブイリや福島、スリーマイル島などの事故の悲劇を繰り返す恐れもなくなる。
ただし、核融合エネルギーの利用に懐疑的な人もいる。たとえば、サスカチュワン大学のシャリー・ランガハルユールはあまり心を動かされていないようだ。イギリスの放送局BBCが伝えている。
ランガハルユールなどの、核融合エネルギーの利用に批判的な層が指摘しているのは、少なくとも現時点では核融合反応はそれを生みだすために必要な量以上のエネルギーを発生させないということだ。
問題点はほかにもある。仮に核融合反応が膨大なエネルギーを生みだすとしても、いまのところそのエネルギーを利用可能な電力に変換する具体的な方法が存在しないのだ。
写真:Unsplash / Anthony Indraus
とはいえ、研究は進展していくだろう。もしこの研究が実用化に至るようなことがあれば、中国は世界のエネルギー問題において非常な優位を得ることになる。
ただし、どれほど理想的に研究が進んだとしても実用化が可能になるのは2050年ごろだと考えられている。
核融合エネルギーの研究に最近乗り出してきたのがイギリスだ。イギリスでは現在、核融合実験炉を建設する場所を検討中となっている。
写真:Unsplash / Martin Sepion
『ブルームバーグ』によると、核融合エネルギー研究は投資家筋からも有望とみられており、2020年にはこの技術を研究する民間企業への投資は各社合計で300万ドル(約4億円)に上ったという。
写真:Unsplash / Pepi Stojanovski
太陽にも匹敵するエネルギーを利用するというのはなんともSF的な発想のようだが、それももはや過去の話。もう実用化もすぐそこまで迫っているのかもしれない。