世界中ではびこる「チャバネゴキブリ」の故郷はどこ?(ハーバード大学研究)
隙あらば人家に忍び込むキッチンの厄介者、チャバネゴキブリ。いまや世界各地に広く分布しており、その故郷については不明な部分も多かったが、最近になって研究者たちがついにその謎を突き止めたようだ。
ハーバード大学の研究者たちは、ゴキブリの仲間としてはもっとも一般的なチャバネゴキブリについて、人間の生活環境に適応することによって世界中に広がったと結論づけた。
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『サイエンス』誌いわく、チャバネゴキブリにまつわる謎のひとつはその原産地だ。ドイツで採集された標本にちなんで「Blattella germanica(ドイツのゴキブリ)」という学名が付けられているが、ドイツにもともと生息する種とは遺伝的に離れているのだ。そして、言うまでもなくドイツ以外の地域でも普遍的に見られる。
画像:Nowshad Arefin / Unsplash
また、研究者はCNBC放送に対し、チャバネゴキブリの生息地はそもそも人家だとコメント。人里を離れ野生下で暮らすものがいないため、どこからやって来たのかよくわかっていなかった。
画像:Erik Karits / Unsplash
そこで、ハーバード大学の研究チームはチャバネゴキブリと人間社会のかかわりに着目し、進化の歴史を解き明かすことにした。
ハーバード大学の研究チームはまず、チャバネゴキブリのゲノム情報を、沖縄から東南アジアにかけて生息するオキナワチャバネゴキブリ(Blattella asahinai)と比較。
ただし、『サイエンス』誌によれば、チャバネゴキブリはオキナワチャバネゴキブリの近縁種であるとはいえ、後者がそのまま分布域を広げたものではないという。
論文著者のひとりでハーバード大学ローランド研究所所属の生物学者、チャン・タン博士が『サイエンス』誌上で語ったところによれば、同博士らは10年前からチャバネゴキブリのDNAを研究し、起源を突き止めようとしてきたそうだ。
全ゲノム解析という手法が普及したおかげで、タン博士の研究チームはチャバネゴキブリの個体群どうしがどのような関係にあるのかを解き明かすことができるようになったという。
同チームの研究によれば、チャバネゴキブリはおよそ2000年前にインドやミャンマー一帯で出現し、人間の食べ物をエサにするという進化を遂げ、近縁種から分岐したらしい。
タン博士が『サイエンス』誌に語ったところによれば、チャバネゴキブリはその後、およそ1200年前に栄えたウマイヤ朝やアッバース朝の交易網に乗って分布域を拡大させていったとのこと。
そして、今から400年前にオランダおよび英国が東インド会社を設立し、東南アジアの製品をヨーロッパへ持ち込むようになるとチャバネゴキブリはさらなる増殖のチャンスを手にした。
タン博士いわく、近代的な蒸気船や暖房付き家屋の普及によって、高温多湿を好むチャバネゴキブリにとって快適な環境が出来上がってしまったとのこと。
これをきっかけにチャバネゴキブリはあっという間に世界中に拡散してゆく。ハーバード大学の研究チームによれば、ゴキブリのゲノム情報は地政学的な境界線とおよそ一致したという。
今回の研究には加わっていないリスボン大学の生物地理学者セザル・カピーニャ博士は『サイエンス』誌に対し、「この論文では(ゲノムの)パターンと歴史上の出来事がうまく対応づけられている」とコメントし、研究を評価した。
一方、タン博士は今後の展望について、博物館の標本から得られたデータをもとに、チャバネゴキブリの進化をさらにさかのぼりたいとしている。起源の解明がさらに進めば、駆除への応用も期待されるだろう。