世界各地で広がり続ける「光害」:暗闇も星空もなくなる?
子どもの頃を思い出すと、夜空にはもっと星が輝いていたような…… そんな記憶があるかもしれない。これはべつに「思い出補正」ではない。ここ10年、光害のせいで星の見え方ががらりと変わってしまったのだ。
最近『サイエンス』誌に掲載された論文によると、光害の影響から、肉眼で見ることのできる星の数がどんどん減りつつあるという。
写真:Saad Chaudry/Unsplash
この研究は、天文学者と在野の科学者が12年にわたり、夜空の星の数を数えた末の報告である。国際的な科学研究プログラム「Globe at Night」(「夜空の明るさ世界同時観察キャンペーン」と日本では訳されている)の一環としておこなわれた。
キャンペーンの参加者は、指定のウェブサイトを訪れ、おのおのの観測位置に対応する星図の一覧をしらべる。それらの星図は、空の区画に位置する星々が、明るいものから暗いものへ徐々に数を増していくように図示されている。観測者たちは自分の見え方に一番近いものを、それらの星図から選ぶ。
次に研究者たちは、目に見える星の数と、夜空の明るさとを関連づけるモデルを作成した。
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星を数えた結果の集積をもとに、星の視認性についての変化を割り出した結果、毎年ほぼ10パーセントの割合で空が明るくなっていることがはっきりした。
それはつまり、研究者によれば、250の星が見えるエリアに生まれた子どもは、18年後に同じ場所で夜空を見上げて、100に満たない星しか見えないということを意味する。
「この傾向が続くとすると、しまいには空に何も見えなくなります。一番明るい星座さえ見えなくなるのです」と、本論文の執筆者のひとり、クリストファー・カイバ博士は言う。
写真:Jack B/Unsplash
人工的な照明から発せられる光は、20世紀に指数関数的に増加したとカイバ博士は述べる。その背景には、人口増加、新しいテクノロジーの誕生、都市のさらなる拡大があった。
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ここ最近、多くの施設の照明器具が、従来の白熱灯や蛍光灯からLED照明に付け替えられている。LEDはエネルギー効率にすぐれているが、光害に歯止めがかかるわけではない。
欧州宇宙機関の研究(2022年)によると、LED照明のランニングコストが相対的に低いことで、光害問題に拍手がかかっているという。このことを彼らは「照明のパラドックス」と呼んだ。
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「LEDは、エネルギー消費を格段に減らし、夜の視界を明るく照らす革命的な発明になると言われていた。だが、全体的な光害はますます進むことになった」と、当宇宙機構は語る。
「逆説的なことに、安価で高性能であればあるほど、高度な社会は照明への依存度を強めていく」と、彼らは付け加えた。
害はそれだけではない。光害は睡眠パターンを混乱させ、人体の健康をむしばむことが明らかになっている。
夜行性の生き物にも影響が及ぶ。最近の研究では、光害によって調査エリアの昆虫の数が減ったと報告されている。
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そんななかでも、光害の改善のため、ひとりひとりにできることがあるという。では一体どんなことか、見ていこう。
日が沈んだら、カーテンやブラインドを使い、部屋の光がなるべく外に漏れないようにしよう。これは屋外の光害を減らすことにつながる。
夜になると、スクリーンの明かりは最低限で十分だ。夜間用の暗い設定に切り替えよう。こうすると目にも優しい。
懐中電灯やヘッドライトで夜道を照らしながら進むとき、光がなるべく道に落ちるようにしよう。そんなことまで、と思うかもしれないが、上のほうに細い光線を向けると、それだけでも光害に寄与してしまう。
私たちはついつい、日没後の部屋をこうこうと照らしてしまう。けれど、そんなに明るくする必要はないのだ。明かりを落としても、私たちの目はよくできたもので、しばらくすると十分見えるようになる。
電灯ではなくロウソクを使う、夜のドライブは避ける、本当に必要なとき以外は電灯を消す、日没後にはスマホなどのハイテク機器から距離をとる。こういうことも、光害を減らす一助になる。