上海ロックダウン:フェンスを設置する当局
「ゼロコロナ」政策を進める中国当局は数日前から、封鎖エリアにフェンスを設置し、住民による外部への移動を阻止しようとしている。
SNSは4月23日に設置された新たなフェンスの写真やビデオで溢れかえった。住民たちがこの措置に不満を表明しているのだ。
政府による新型コロナウイルス対策の強化は、封鎖エリアの住民の不安を掻き立てている。ある日、目が覚めると自分が住んでいるアパートの入り口が予告なく封鎖されてしまっているかもしれない、という不安だ。
中国のビジネス誌『財新』によると、上海の金融街、浦東新区では、感染者を出した建物の周囲に高さ2メートルの金属版あるいはメッシュのフェンスが設置されたという。
上海市は、感染拡大のリスクに基づいて地域を3種類に分ける仕組みを導入した。「カテゴリ1」に指定されたエリアでは最も厳しい措置がとられ、フェンスの設置もこのエリアに集中している。
「カテゴリ3」エリアの住民は外出して公共の場にアクセスすることも認められている。このエリアではボランティアが住民の散髪を無料で行ったりしている(写真)。
封鎖されているアパートの多くで、新型コロナウイルス陽性の住民はたった1人だ。しかし、BBC放送によれば、その他の住人は検査結果にかかわらず全員アパートから外出禁止となってしまうのだという。
上海に暮らす2500万人の住民たちはすでに数週間、ロックダウン下にあり、5月はじめには規制が解除されることを期待していた。しかし、最近の対策強化によって通常の暮らしがいつ戻ってくるのか、雲行きが怪しくなっている。
多くの国々で規制が緩和され「ウィズコロナ」の機運が高まるなか、中国は「ゼロコロナ」政策を維持し続けている。
上海のロックダウンはすでに4週間目に入っており、住民は規制解除を心待ちにしている。ここで、ロックダウン中の困難な生活の様子を見てゆこう。
カナダのCBC放送は、ロックダウン中の上海で足止めされているカナダ人数人と連絡を取ったという。
夫および3人の子供と一緒にロックダウンされているレイチェル・ルオ(35)の場合、3月10日以来、上海のアパートから出られなくなっており、ゴミ出しと食料・日用品の受け取り時のみ外出が許されるという。
しかし、一家がとりわけ悩まされているのは精神的な問題だという。レイチェルはCBC放送に対し「時々、重苦しい気分になって、もう限界だと感じることもあります」とコメントした。
さらに「子供たちを外に連れ出して遊ばせてあげられないのは本当に辛い。子供たちのメンタルヘルスが心配です」と続けた。
上海の一部の地区では、すでに規制緩和が始まっている。しかし、世界的流行時に2年間のロックダウンを実施しており、住民たちのストレスは限界に近付いている。
CBC放送に対してゼロコロナは不可能だと語るレイチェル・ルオ:「中国がゼロコロナを達成するのは無理です。夢物語です。仮にゼロになったとしても、またやって来るに違いないんですから」
メンタルヘルスが上海住民の福祉を語る上で重要なのは間違いないが、もう一つはるかに差し迫った問題がある:食料不足だ。上海では3月下旬から段階的に対策強化が始まり、4月には市全域にロックダウンが発令されたため、住民には準備する時間がほとんどなかったのだ。
『ワシントン・ポスト』紙によれば、食料不足の問題は市内全体に広がっているという。規制の結果、サプライチェーンが機能しなくなり、地区自治会は住民のニーズに応えるのが難しくなっているのだ。
中国政府は、食料を詰め込んだ箱が封鎖エリアの住民に無料で配達されていると主張している。しかし、上海市民の証言によれば、実際に送られてくるものはかなり違っているようだ。
当局がマスコミに発表する充実したイメージとは裏腹に、CBCをはじめとする報道機関の取材を受けた家庭が提供した配給の写真からは、かなりお粗末な内容が見て取れる。
CBC放送によると、レイチェルの一家に届いた一週間分の配給はタマネギ2玉、ズッキーニ1本、ニンジン1本、ショウガ少量のみだったという。他にも、たくさん届いたが半ば腐っていたというようなケースもあるようだ。
オンラインショッピングという手もあるが、生活必需品は品切れになっていることも多い。夫および10代の息子2人とともに上海で暮らす、トロント出身のルス・チュアはCBC放送の取材に「食べ物を手に入れるのは大変です」とコメントした。
チュアいわく:「初めて(オンラインショッピング)をやってみたときは、カートに約20の品物を入れることができました。結局、手に入れたのはニンジン、パクチー、飲料水ボトルだけですが。それでもありがたいものです」
写真:上海の食料品配達人(4月16日)。
また、多くの住民は物々交換で物資不足を凌いでいる。アシュリー・チーと名乗る28歳のIT企業マネージャーに取材した『ワシントン・ポスト』紙によれば、余分な配給品を共有スペースにおいて隣人と助け合うのが一般化しているという。
『ワシントン・ポスト』紙に対し「最近、5リットル入りの飲料水と醤油1瓶を交換しました」と語るアシュリー。「相手は最初、お金を払おうとしました。でも、お金なんか役に立ちません。私は水が必要なんです」
しかし、食料不足だけが悩みの種ではない。「コロナウイルスセンター」に送られることを恐れる住民が多いのだ。
写真:陽性の男性がコロナウイルスセンター行のバスに乗せられるところ。
中国当局の方針によると、3月上旬以降に新型コロナウイルスの検査で陽性を示した者および濃厚接触者は、症状の程度に応じて隔離センターまたは病院に送られることになっているのだ。
隔離センターは臨時に建設された野外病院であり、快適だとは言い難い。場合によっては、建設現場や学校が隔離施設として転用されることもあという。
睡眠や入浴のためのプライベートエリアといった基本的な設備がないどころか、医師や看護師がいないことも珍しくない隔離センター。このため、上海市民はウイルスに感染することより、センターに送られることを恐れている。
上海市民の間で不満が募っているのは間違いない。一部のエリアでは居住者の外出が許可され、規制の緩和が図られているものの、大部分の住民は3週間以上のロックダウンに疲弊し、変化を待ち望んでいる。また、当局に窮状を直訴する動きもあったようだ。
『ワシントン・ポスト』紙によれば、共産党上海委員会書記の李強(写真)が市内の視察をおこなった際、老婦人が配給の不足について直訴し、その動画がSNSで拡散しているという。
その動画には、近隣のアパートから住民が「助けて、食べ物がないの!」と叫ぶ声も入っていた。
異議を唱える人も少なくない中国のゼロコロナ政策。上海市民は、5月までにはロックダウンが解除されることを期待している。しかし、ゼロコロナ政策が続く限り、新たなロックダウンが行われるのも時間の問題だろう。