スペースX社が打ち上げた大型ロケット「スターシップ」、最終段階で「喪失」するも一定の成果
イーロン・マスク氏率いるスペースX社は3月14日に大型ロケット「スターシップ」の打ち上げ実験を敢行。これまでは発射直後にトラブルが相次いでいたが、今回はほぼ最終段階までミッションを達成。大気圏再突入後に分解してしまったものの、技術的には大きな前進を見せたようだ。
全長120メートルの巨体を持ちながら圧倒的なパワーで宇宙へと飛び立つロケット兼宇宙船、それがスペースX社の「スターシップ」だ。
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発射実験の様子はYouTubeチャンネル「VideoFromSpace」を通じてライブ配信された。動画の中では、同社の品質管理エンジニアを務めるケイト・タイス氏がスターシップについて「これまでに作られた飛行物体としては圧倒的に最大」と成果を強調した。
@ VideoFromSpace / YouTube(スクリーンショット)
テキサス州南部のボカチカから現地時間午前8時25分に打ち上げられたスペースXは、発射後数分で1段目のブースターを正常に切り離し、最初の難関をクリア。
『ル・フィガロ』紙いわく、スターシップは世界中の人々が固唾を呑んで見守る中、「轟音を立てながら地球の重力をゆっくりと振り切った」のだ。
また、同紙が伝えたところによれば、スターシップはかつてのアポロ計画で「宇宙飛行士を月に運んだサターンVの2倍という驚異的な推進力」を誇るとのこと。
発射後、1分足らずで時速1,000キロメートルに達したスターシップ。さらに1分後には時速3,000キロメートルを突破したそうだ。
一方、全長50メートルの宇宙船本体は順調に飛行を続け、およそ40分後には高度234キロメートル地点に到達。宇宙開発史に新たな1ぺージを開いた。
その後、スターシップはインド洋へ着水する予定だったが、大気圏への再突入を試みた際に「喪失」し、有終の美を飾ることはできなかった。降下中に空中分解してしまったものと見られている。
フランス国立宇宙研究センターで太陽系探査プログラムの責任者を務めるフランシス・ロカール氏は今回の打ち上げ実験について「機体の飛行が完全に制御されているようには見えなかった」としつつも、「今回行われた3度目の試験飛行で進歩が見られたのは間違いない」と成果を認めている。
耐熱タイル1万8,000枚からなる熱シールドがスターシップに搭載されたのは今回が最初であり、このシステムの有効性が初めて試験されたということになる。
さらに、今回の実験では2つのタンクの間で燃料を輸送する実験も行われた。スターシップは将来、月面着陸のミッションに利用されることになっており、そのためには宇宙空間で燃料を補給する能力が欠かせないのだ。
スターシップの特徴は完全再使用型のロケットを目指していることだ。スペースX社は公的機関による資金援助を受けていないが、すでに複数のモデルを開発し、ムダのない宇宙船の実現を目指している。
2023年に行われた2度の実験では打ち上げ直後に大爆発を引き起こし、連邦航空局(FAA)による調査が行われる事態となった。
@ SpaceX / Unsplash
最終的に機体を「喪失」してしまったとはいえ、一定の成果を挙げたスペースX社。「BFM TV」放送の報道によれば、NASAのビル・ネルソン長官もスターシップの「成功」を祝福したという。
@ Jametlene Reskp / Unsplash
また、同放送によれば、スペースX社を率いるイーロン・マスク氏本人も2024年1月に「時間を犠牲にするくらいなら、モノを犠牲にした方がよいのです」と述べていたそうだ。
3月14日、スペースX社は今回の実験に合わせて、今年は「打ち上げ頻度のペースアップ」を図ると発表。
スターシップは今回の打ち上げ実験の際、貨物扉を開閉する試験も行っている。これはスターシップを利用して50~100基におよぶ衛星を一度に軌道へ運ぶという計画を視野に入れたものだ。
スペースX社は高速インターネットの普及を目指し、衛星網「スターリンク」の整備を進めているが、そのための衛星群も将来的にはスターシップを利用して打ち上げられるものと見られる。すでに 5,000基ほどが軌道上にあるが、同社は今後数年間で数万基を打ち上げるという目標を掲げているのだ。
さらに、中期的にはスターシップをNASAに提供し、アルテミス計画の一環として月を目指すとのこと。
写真:History in HD / Unsplash
しかし、イーロン・マスク氏の野望は月面着陸でおしまいではない。スターシップを利用して火星を開拓し、人類の生息域を複数の惑星に拡大しようと言うのだ。そのための第一歩となるスターシップも今回の打ち上げ実験を経て、開発にいっそう弾みがついたはずだ。