ロシア軍の攻撃で発電機能の9割を奪われるウクライナ、冬の到来に不安
プーチン政権がウクライナ侵攻を開始して2年半が経過したが、ロシア軍が攻撃の手を緩める気配は見えず、ウクライナは各方面で苦戦を余儀なくされている。そんな中、この夏以降の戦況がウクライナ不利に傾くことを懸念する声も挙がっている。
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ウクライナ当局や市民がとりわけ危機感を抱いているのは冬の到来だ。というのも、ロシア軍の攻撃により、電力インフラに大きな被害が出ているためだ。
ウクライナにおける原子力発電所以外の電力インフラは大部分がDTEK社によって賄われているが、同社のCEOマキシム・ティムチェンコ氏は『エコノミスト』誌のインタビューの中で、今年だけでウクライナの発電機能はその90%が失われてしまったと明かしている。
一方、ロシア側も電力インフラの破壊によってウクライナに打撃を与えられることを認識しており、ここ数ヵ月は火力発電所や水力発電所、太陽光発電所を重点的に攻撃しているのだ。
『エコノミスト』誌によれば、開戦前のウクライナにおける発電量は36ギガワットだったが、2023年末には半減してしまったという。
そして、ここ数ヵ月の攻撃によって、ウクライナの発電量はさらに9ギガワット低下。残りの電力は原子力発電によって賄われていると『エコノミスト』誌は伝えている。
このような状況のため、ウクライナの都市では停電が頻発しており、発電機の需要が高まっている。
そんな中、ウクライナ当局も2つの対策を打ち出し、電力不足の解消を図っている。まず、ひとつ目は欧州連合(EU)からの電力輸入を増やすことだ。ただし、これにはハードルもつきまとう。
そこで、当局は損傷を受けた発電所にエンジニアを派遣し、大急ぎで修復に当たらせているのだ。『エコノミスト』誌によれば、ウクライナは発電所を復旧させるため、すでに解体された旧ソ連時代の発電所など、あちこちから部品をかき集めているそうだ。
さらに、ウクライナ当局は原子力発電に重点を置いた、新たなエネルギー政策に舵を切る姿勢も見せている。
今年1月、ウクライナのエネルギー相ヘルマン・ハルシチェンコ氏がロイター通信のインタビューの中で、ウクライナ西部にあるフメリニツキー発電所で原子炉を新たに4基建設すると明かしたのだ。
ウクライナの原子力安全委員会によれば、同国には原子力発電所が4ヵ所あり、原子炉は合計で15基。ウクライナにおける発電量のおよそ半分を占めているそうだ。
中でも重要な位置を占めるのはヨーロッパ最大の原子力発電所、ザポリージャ発電所だったが、2022年にロシアに占領され、現在は稼働していない。かつてのザポリージャ発電所はウクライナ国内で原子力による発電量のおよそ半分を生み出していたという。
同時に、ウクライナ政府は風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーにも力を入れはじめており、戦争が脱炭素化を推し進めるという皮肉な事態になっている。
ウクライナのニュースサイト「Ukraine Business News」が行ったインタビューの中で、ウクライナ風力エネルギー協会のアンドリー・コネチェンコウ会長は、戦時下のウクライナで風力発電所が新たに3ヵ所(発電量はそれぞれ114メガワット、60メガワット、54.6メガワット)建設されたと説明。
また、太陽光発電所の建設も進められている。専門家によれば、こういった新たな発電所はロシア軍によるミサイル攻撃を想定して頑丈に作られており、ダメージを受けた場合でも迅速に修理できるようになっているそうだ。
いずれにせよ、ウクライナは電力需要が高まる冬が訪れる前に、家庭用・産業用の電力を確保するため、急ピッチでの対策を迫られているのだ。