ロシア軍の人海戦術、これ以上の継続は困難か
世界で第二位の軍事力を持つロシアがウクライナ侵攻を開始して3年近くが経過した。プーチン政権は当初、短期間で決着をつけることを予想していたようだが、実際は予想外の展開となった。
侵攻開始からすぐに激しい戦闘が行われ、その結果ロシア軍はせき止められ、戦線は思いがけず膠着した。とはいえ、ロシアには膨大な武器弾薬や人的資源があり、それに頼って長期戦を戦うことができていたようだ。だが、そういった事情もついに変わりつつあるかもしれない。
アメリカの軍事アナリストで、カーネギー国際平和基金でロシア・ユーラシア・プログラムのシニアフェローも務めているマイケル・コフマン氏によると、ロシアはウクライナに対する最大のアドバンテージだった数的優位をもうすぐ失う可能性があるというのだ。
コフマン氏は米紙『The Intelligencer』のベンジャミン・ハート記者による取材に応え、ロシア側はあまりにも過大な損失を被っており、ウクライナに対して持っていた数的優位というアドバンテージを2025年冬には失うことになるとしている。
ハート記者によると、侵攻開始以来、アナリストらはロシアがウクライナに対して持っている数的優位という要素に注目してきたという。だが、最近こそやや改善されてきたとはいえ、ロシアはいまだに「使い捨て精神」を捨て切れていないのだという。
ハート記者はコフマン氏に次のように質問している:「ロシアが投入できる兵士の数に限界はあるのでしょうか? ロシアの持つ数的優位というアドバンテージは、資源の減少や政治的圧力などによって覆されることはあるのでしょうか?」これに対するコフマン氏の回答は意外なものだった。
コフマン氏によるとロシアはこれまで、激しい消耗戦を人的・物的資源を使い捨てることで乗り切ってきたという。だが、最近のロシア軍は「顕著な制限」のもと活動しており、数的優位を頼みにした行動は終わりを迎えつつあるかもしれないというのだ。
「(ロシアの)戦場における数的優位は今冬から翌年にかけて減少していくだろう」というのがコフマン氏の見積もりだ。同氏はその理由としてふたつの事実を指摘している。
まず、ウクライナにおける装備品の損耗はかなり激しく、ソビエト時代からの在庫は払底しつつある。「ロシアはソビエト時代の遺産を食い潰しており、現在の生産数は損耗に比べるとかなり少ないのです」とコフマン氏は指摘している。
実際、ロシアが抱えるソビエト時代の武器在庫が縮小しつつあるという報道もすでに出ており、コフマン氏の主張を裏付ける形となっている。2024年7月には『エコノミスト』紙が、ロシアが自らの生産能力を上回る数の損害を被っているという報道を出している。
同紙の報道では、ロシアは開戦以来175両のT-90M戦車を失ったとしている。だが、ロシアにおける戦車の年間生産数は90両ほどとされ、しかもその多くが古くなったモデルT-90Aの改修に充てられているという。
同紙はさらに、T-90Aの改修が終わった場合、新たに作れるT-20Mは年間28両ほどになるとの見積もりも伝えている。もしそうなればロシアにとっては大問題だ。
オランダに拠点を置くOSINT組織「Oryx」は10月15日時点で、全面侵攻開始以来、計18,316の軍事装備をロシアが失ったことを確認したとしている。
「Oryx」はまた、同組織の集計方法に鑑みるとロシアの実際の損失はこれよりも大きな数となるだろうともしている。こういった損耗はこれまでソビエト時代の在庫を使って補填されてきたが、その在庫も尽きようとしているというのがコフマン氏らの見立てだ。
ただし、コフマン氏は「だからといって、ロシアの装甲車両が直ちに不足するということではありません」とも述べている。だが、ロシアは軍事行動における戦略方針を変えざるを得なくなり、多大な犠牲を払ってでも戦況を大きく変えるような行動は取りづらくなるだろうともしている。
人的資源という観点でも、ロシアは同様の問題に直面している。ロシアはいまもなお、戦線に投入可能な潜在的人的資源を大量に抱えているが、現在の損耗率は持続可能なレベルを大きく超えていることも揺るぎない事実なのだ。
コフマン氏はこう述べている:「これもまた、ロシアが直ちに兵士不足に陥るという話ではありません。ですが、ロシアが苦慮していることも確かで、いままでのような攻撃的で損耗の激しい作戦を続けることはできないでしょう」
ウクライナ参謀本部による推計では、ロシア側には今年12月の時点で約70万人の死傷者が出ているという。あくまでもウクライナが出した数字であることには注意が必要だが、イギリス国防省やアメリカによる推計とも大きく異なってはいない。