露呈するロシア兵の訓練不足:人海戦術を多用する露軍の死傷者数がうなぎ登りに
ロシア軍がウクライナへの全面侵攻を決定したとき、ロシア指導部は戦闘は数週間で終わると考えていたという。だが、その予測はかなり甘かったようだ。
やがて、ウクライナがそう簡単には降伏しないということが明白になり、多くの専門家やメディアが、ロシアがウクライナを即座に占領できなかった理由について分析をはじめた。
ロシア軍のお粗末なパフォーマンスの原因として挙げられているのが、兵士の質の低さだ。しかもある軍事アナリストによると、驚いたことにこの問題は悪化を続けているという。
その問題を指摘しているひとりが、米国に拠点を置くシンクタンク「戦争研究所」のアナリスト、ジョージ・バロス氏だ。同氏は『ビジネスインサイダー』に対して、ロシア軍における兵士の質問題の根深さを語っている。
バロス氏(写真右)は同サイトに、「ロシア軍における個々の兵士の質の低さがこれまでにないレベルに至っている」ことに驚いたと述べている。
画像:X @georgewbarros
ロシア軍が新たな兵士を動員するたびにその質は下がっているとされ、まともな練度の兵はまったくやってこないのだという。
新兵の練度が低い原因のひとつは、まともな訓練も受けずにウクライナとの戦闘に投入されてしまっていることだ。『ビジネスインサイダー』によると、この傾向は全面侵攻開始当初からウクライナやアメリカの情報機関によって指摘されていた。
2022年10月には『ニューヨーク・タイムズ』紙が、ロシアの新規動員兵が「数日の訓練のみを経て戦場に送られ、戦死している」という報告が多数あると伝えている。ただし、同紙も留保しているように、これらの報告は明確な統計的事実として出されたわけではなく、エピソード的なものに留まっている。
同紙のニール・マクファーカー記者はこう書いている:「訓練不足を示す証拠はエピソード的なものだが、ロシアではその種の動画が多数流通している。また、条件の改善を求めてストライキを実施すると訴える動員兵も見られることや、もろもろの報道等も、この問題の根深さを露わに示している」
ロシアの新規動員兵が訓練不足を訴える動画は2022年以降、継続的に見られた。例えば、2024年8月にカナダのCBCニュースが入手したある動画でも、捕虜となったロシア兵が訓練不足について語っていた。
CBCニュースは8月21日に動画を公開している。そこに付された解説では、特にウクライナが逆侵攻を仕掛けているロシアのクルスク州では「徴兵された後、ほとんど訓練も受けないままウクライナ軍に蹂躙されたと語る兵士もいる」とされている。
全面侵攻開始から3年近くが経過したわけだが、バロス氏は『ビジネスインサイダー』にこう語っている:「ロシアが新兵養成にかける時間をこれ以上短縮するのは不可能に思えます。軍務に適さない人々を無理やり配備するしかないのでは」
「ただ、いまや兵士に要求される水準も相当に低くなっています」ともバロス氏は付け加えている。最近のロシア軍は死傷者数の増加にも悩まされているのだが、その理由は兵士の質が異様に低下していることに求められるかもしれない。
9月17日、英国防省は今回の侵攻におけるロシアの死傷者数が61万人に達したと報告している。その報告では、大量の歩兵を用いた人海戦術は必然的に継続的な新兵の動員を要するとも述べられている。
報告では「多数の歩兵による人海戦術を用いたことで、ロシアは前線の戦力を補充するために継続的な新兵の動員が必要となっている」とされている。だが、2023年には1日あたり1,600人だった新規徴兵のペースが、2024年に入ってからは1日あたり1,000人に鈍化したという。しかも、これはロシア側の発表した数字であり、徴兵の実態はより厳しい可能性がある。
2024年現在、これらの新規に徴兵された人員がどれほど適切な訓練を受けているのかは明らかではない。だが、バロス氏や英国防省の分析に鑑みると、これらの新兵がいままでと同様に死傷率の高い人海戦術に用いられる可能性は高いと言えるだろう。