ロシアに送られた北朝鮮兵が現実に直面:はやくも脱走未遂が多発
北朝鮮がロシア軍に自国の兵士を派遣していることは、アメリカ政府やNATOも確認している。だが、戦時下の国に送られた兵士たちの考えは必ずしも上の思惑通りとはいかないようだ。
米政府は10月28日、1万人の北朝鮮兵がロシア軍の訓練施設に派遣されていると発表した。派遣された兵士たちは今後、ウクライナ侵攻の前線に送られると見られている。
だが、ウクライナ側の情報によると、ロシア当局はすでにこれまでに18人の北朝鮮兵を脱走容疑で逮捕しているのだという。『キーウ・インディペンデント』紙が報じている。
同紙によると、脱走が起きたのは10月14日、クルスク州での訓練中だったという。訓練は森林地帯で行われ、40人程度の部隊が教官の指導のもと配置に就かされていた。訓練は数日間に及び、兵士は具体的な指示や食料も与えられずに放置され、やがて持ち場を無断で離れる兵が出てきたとされる。
同紙いわく、脱走から2日後、ロシア当局は18人の兵士を逮捕したという。場所は当初の位置から約60km、ウクライナ国境から約7kmの地点だった。
この出来事が明らかにしているのは、北朝鮮兵をロシア軍に組み込むのは簡単ではないということだ。仏放送局「France 24」の取材を受けたある専門家によると、この統合問題が原因となって、多くの脱走兵が発生する可能性があるのだという。
ロシア軍に組み込まれた北朝鮮兵には言語や文化の壁が立ちはだかるだけでなく、戦争の現実も迫ってくる。北朝鮮の軍隊は世界でも最大級の規模(総兵力約120万、予備役約50万)だが、実戦経験には乏しい。
国連の北朝鮮専門家ヒュー・グリフィス氏はこう語っている:「北朝鮮は世界最大規模の軍隊を持っていますが、質が良いとは言えません。人数こそ多いですが、実戦経験は皆無です」「France 24」が伝えている。
また、北朝鮮軍は経験が不足しているだけでなく、装備も時代遅れで、しばしば冷戦時代のものが現役となっている。
金正恩総書記のもと、国内では北朝鮮軍は世界レベルで向かうところ敵なしというプロパガンダが広められている。だが、ロシア軍に派遣された兵士たちは、世界の現実を目にして幻滅したり、あるいは疑問を抱いたりするかもしれない。グリフィス氏は、現実を直視することで「兵士たちが状況をより良く理解し、何が嘘で何が本当か分かるようになり得る」と述べている。
また、これまで想像もできなかった形の自由を知ったことで、ロシア軍を離れようとする北朝鮮兵も出てきている。グリフィス氏はこう語っている:「平時と同じように情報から隔絶させておくことはできません。ロシアでは北朝鮮よりも良い生活が送れるということや、携帯電話やSNS(テレグラムなど)も利用できるということを知ってしまうのです」
『北朝鮮とグローバル核戦略』などの著書で知られ、イギリスの王立国際問題研究所のフェローでもあるエドワード・ハウウェル氏は次のように語っている:「脱北者にはもともとエリートだった人もそうでない人もいます。いずれにしても、脱北者はしばしば、北朝鮮政府が国民に伝えてきた外国のイメージに騙されていたと分かったのがきっかけだったと語ります」同じく「France 24」が報じている。
ハウウェル氏はこう続けている:「金正恩総書記時代に教育された若い兵士を選りすぐったとしても、脱走を防ぐことはできません。脱走という選択肢のことは多くの兵士の脳裏によぎっていることでしょう」
北朝鮮兵はウクライナ侵攻においてどのような役割を果たすことになるのだろうか。国連の専門家、グリフィス氏はこう語っている:「せいぜい肉の壁程度で、あまり良い扱いは受けないでしょう。派兵が片道切符であることには兵士たちもやがて気づくでしょうし、そうすれば脱走や逃亡も増えるはずです」
2024年6月、ロシアと北朝鮮は戦略的パートナーシップ条約を締結、ロシアによる技術援助と引き換えに、北朝鮮はウクライナ侵攻に対して軍事支援を行うことになった。ロシア政府も強調するように、この条約には有事の際の相互支援が明記されている。
ロシア軍が人手不足に悩んでいることは確かだが、今回の北朝鮮による派兵の背景には人員の補充だけではない狙いがありそうだ。フランスの国際関係戦略研究所(IRIS)の研究者バルテルミ・クールモン氏によると、ロシアの目的は「韓国に圧力をかける」ことだという。
韓国はアジアの国としては珍しく、ロシアに制裁を課している。こういったこともあり、クールモン氏は「朝鮮半島におけるエスカレーションリスクはかなり大きい」と見積もっている。
写真は北朝鮮と韓国の間にひかれた軍事境界線