プーチン政権、終わりの始まり?:低下する権威
すぐに片が付くという見込みで始まったロシアの「特別軍事作戦」。しかし、1年あまりが経った今も終結する気配はない。それどころか、盤石に見えたプーチン政権に亀裂が見える事態となっている。
レストラン経営で財をなし、オリガルヒの仲間入りを果たしたエフゲニー・プリゴジンは、民間軍事会社ワグネルの代表としてウクライナの戦場でも辣腕を振るうなど、プーチン大統領の腹心であると見られていた。ところが……
6月23日、終わりの見えない戦争に嫌気が差したのか、プリゴジン率いるワグネルは突如、モスクワを目指して進軍しはじめたのだ。
しかし、プリゴジンは反乱を中止する決定を下し、本人はベラルーシに亡命。当局も刑事訴追はしない方針で合意した。今回は何とか難を逃れることができたプーチン大統領だが、その権威はすでに風前の灯火だという見方もある。
ウクライナ侵攻の開始以来、プーチン大統領は国際社会で孤立を深めている。では、国内では安泰かというと、実はそうでもないようだ。
これまで、国内から批判を浴びることは滅多になかったプーチン大統領だが、ウクライナ侵攻の長期化とともに矛先を向けられることも増えてきたのだ。
2022年9月、モスクワやサンクトペテルブルクをはじめとする都市の市議会議員数十人が、プーチン大統領の主導する「特別作戦」に反発、辞任を求める嘆願を行った。ドイチェ・ヴェレ放送によれば、市議会議員たちはプーチン大統領を反逆者呼ばわりしたとされる。
さらに、プーチン大統領と政治的立場をともにする人々の間にも疑念が広がっているようだ。たとえば『ニューヨーク・タイムズ』紙は、親プーチン派として知られるチェチェン指導者のラムザン・カディロフ首長がウクライナ侵攻中にロシアが犯した「過ち」についてTelegramでコメントしたことを取り上げた。
カディロフ首長による批判はロシアの主要テレビ局にも取り上げられたが、これは非常に珍しいことだ。
『ガーディアン』紙によれば、ロシア国営メディアもウクライナ侵攻に関する報道姿勢を改めざるを得なくなっているらしい。容易な軍事作戦だと主張しても信じる視聴者はもはやいないので、何らかの形で批判的な声も取り上げるしかないのだ。
通常はプーチン政権に忠実なロシア共産党も、不満の声を挙げはじめている。ゲンナジー・ジュガーノフ党首がロシア政府に対し、ウクライナに正式に宣戦布告した上で、国内に「総動員令」を発するよう求めたのだ。
CNBC放送によれば、ジュガーノフ党首の呼びかけは、予備役兵の召集や兵器製造への資金投入といった「部分的動員」の形で一部実現されたという。
一方、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ロシア政界エリートたちがクーデターを起こす可能性について報じた。プーチン大統領の元スピーチライターで現在はイスラエル在住のアッバス・ガリャモフが、ウクライナの戦場でこれ以上損失が出続ければ、ロシアのオリガルヒも体制の転換を視野に入れ始めるかもしれないと述べたことを報じたのだ。
ガリャモフが『ニューヨーク・タイムズ』紙に語ったところによれば、「プーチン大統領の権威の源は力のみだ。もし、すでに力を失っていることが明らかになれば、その権威はゼロに向かって下降線を辿りはじめるだろう」とのこと。
仮にそのような事態となった場合、気になるのは誰が後継者になるのかということだ。セルゲイ・ショイグ国防相が有力だという見方もなされてきたが、国民の間にはウクライナ侵攻における失態のイメージが浸透しており、人気があるとは言い難い。
世論調査の結果によれば、プーチン大統領はいまだに国民から高い支持を受けているとされる。したがって、プーチン政権の弱体化は西側諸国の希望的観測に過ぎない可能性もある。
確かに言えるのは、ウクライナ侵攻における多大な損害にもかかわらず、プーチン政権はいまだ命脈を保っているということだ。