プーチン大統領の味方はだれ?:米国・世界の親露派たち
ウクライナに侵攻するというプーチン大統領の決断は、ロシアに予想外の打撃を与えつつある。しかし、国際社会で孤立を深めるクレムリンにも、様々な思惑から擁護を買って出る味方がいるのだ。
まず、ウクライナ侵攻に関する報道でロシアのセルゲイ・ラブロフ外相から賛辞を贈られたのが、「FOXニュース」だ。孤立を深めるプーチン政権だが、この保守派放送局をはじめ、シンパには事欠かないようだ。
『ガーディアン』紙は2023年3月18日の記事で、ラブロフ外相の「西側諸国に独立系メディアなどないことは以前からわかっている」というコメントを引用。いわく:「米国で政府と異なる視点を提供しようとしているのはFOXニュースだけだ」
ラブロフ外相の賛辞は驚くに当たらない。というのも、米国一の人気司会者でFOXニュースのコメンテーターを務めるタッカー・カールソンはウクライナ侵攻直前に、同地の紛争は「単なる国境紛争に過ぎない」と述べたのだ。ただし、今では当時の発言を撤回しようと試みているようだ。
もちろん、米国の政界でもっとも注目を集めた親露派発言はドナルド・トランプ前大統領によるものだろう。プーチン大統領のウクライナ侵攻について「天才的」だと賛辞を贈ったのだ。
『クレイ・トラヴィス&バック・セクストン・ショー』に出演したトランプ前大統領は、「問題はプーチン大統領が賢明であることではない。我々の指導者が愚かだということだ」と発言。
とはいえ、トランプ前大統領もその後、軌道修正を試みている。NBC放送によれば、サウスカロライナ州で3月12日に行われた集会では、「ロシアに対して私ほど批判的だった者はかつてない」と述べたという。
一方、ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン議員は極右派の集会で演説した際に、支持者たちから「プーチン、プーチン」という声援を受けたという。ただし、彼女自身は支持者たちが何を叫んでいるのか分からなかったと主張している。
テイラー・グリーン議員は3月16日のツイートで、ウクライナに対する物資支援に反対を表明。動画の中で、今の米国政府はバラク・オバマ元大統領、ナンシー・ペロシ下院議長、ミット・ロムニー上院議員、ジョー・バイデン大統領らの利益誘導の道具に過ぎないと主張している。
「ゼレンスキー大統領やウクライナの人々に、勝てもしない戦争について誤った希望を与えるべきではない」と言うテイラー・グリーン議員は、ロシアに対する経済制裁に反対票を投じた8人の共和党議員の 1 人だ。彼らは共和党のリズ・チェイニー議員から「プーチン・ウイング」と揶揄されている。
トランプ政権を議会から支えたフロリダ州選出のマット・ゲーツ下院議員も、「プーチン・ウイング」に名を連ねるとされる1人だ。
大統領候補になったこともあるミット・ロムニー議員をはじめ、共和党議員の多くはトランプ前大統領の発言を批判し、ウクライナ支持の立場を明確にしている。
アーノルド・シュワルツェネッガー元カリフォルニア州知事もロシアのウクライナ侵攻に反対を表明。3月17日にツイッター上で動画を公開し、ロシア兵たちに再考を促したのだ。いわく:「これはロシアの人々の戦争ではない」
ところが、調査会社YouGovのアンケートによれば、共和党支持者の多くはジョー・バイデン大統領やカマラ・ハリス副大統領、ナンシー・ペロシ下院議長よりもプーチン大統領に親近感を抱いていることが分かった、と『ワシントン・ポスト』紙は報じている。
ただし、米国内の親プーチン派は右派だけではない。左派ジャーナリストとして知られるグレン・グリーンウォルドもタッカー・カールソンの番組などで、米国とNATOこそロシアを戦争に駆り立てた原因だと主張している。
ミネソタ州選出の民主党議員イルハン・オマルも、ロシアに対する経済制裁に反対票を投じた1人だ。ラシダ・タリーブと並んでムスリム女性初の米国議員となった彼女は、かつてトランプ支持者たちから様々なコメントを投げかけられている。
『ニューズウィーク』誌の報道によれば、オマル議員はウクライナにおけるプーチン政権の行動を批判する一方、経済制裁はロシアのオリガルヒのみならず人々の日常生活に悪影響を与えるとして、反対の姿勢を示したという。
そして「ロシアやヨーロッパの人々にとって、最終的に良い結果にはならないだろう」と述べた。
オマル議員の姿勢は米国で最も有力な左翼運動の1つ、「アメリカ民主社会主義者(DSA)」の主張とよく似ている。
DSAは3月13日のツイートでプーチン政権のウクライナ侵攻を非難する一方、NATOの東方拡大や飛行禁止区域の設定も批判したのだ:「しかし、皮肉にもタカ派たちは情勢を利用して軍事的緊張をエスカレートさせ、平和外交を望む人々をマッカーシズム的に排除しようとしている」
一方、世界に目を向けると、親プーチン政権の立場を貫く国々も少なくない。たとえば、ウクライナ侵攻を明確に支援しているロシアの同盟国、ベラルーシだ。アレクサンドル・ルカシェンコ大統領率いるこの国はヨーロッパ最後の独裁国家と呼ばれている。
ロシア軍はベラルーシ軍との共同軍事演習を装いつつ、北側からウクライナ領内に侵入することができたのだ。
しかし、チェコのミロシュ・ゼマン大統領やハンガリーのヴィクトル・オルバン首相(写真)など、これまでロシアと良好な関係を保ってきた西側諸国の指導者たちも、ウクライナ侵攻でプーチン政権批判に舵を切ることとなった。
また、米国の共和党支持者にとっては皮肉なことに、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領やニカラグアのダニエル・オルテガ大統領など反米左派の指導者たちもプーチン政権支持の姿勢を表明している。
マドゥロ大統領はロシアの平和を「全面的に支持」すると述べたほか、ドネツク州・ルハーンシク州は「ファシストの攻撃」によりウクライナからの切り離しを余儀なくされた、とした。
また、ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領もプーチン大統領の軍事行動を支持。ドネツク州・ルハーンシク州は国民投票あるいは選挙によって自らの運命を決定することになるだろうとした。
ボリビアのエボ・モラレス元大統領もツイッターでロシア支持を表明。米国がウクライナを唆してロシアと戦争させていると批判した。
一方、ブラジルで右派政権を率いるジャイール・ボルソナロ大統領も、これまでプーチン政権と良好な関係を築いてきた。実際、ウクライナ侵攻については中立を保つと宣言した。
ベネズエラとニカラグアは、南オセチアおよびアブハジアというジョージア内の親露派独立地域を国家承認している数少ない国連加盟国だ。
シリアもまた、南オセチアおよびアブハジアの国家承認を行っている。さらに、ドネツク州およびルハーンシク州に居住するロシア人を保護するという、プーチン政権の大義を支持している。
シリア内戦でロシアはアサド政権の重要な同盟国だった。
キルギスのサディル・ジャパロフ大統領は「人々の平和を守るために不可欠な措置だったのだろう」と述べ、ウクライナ東部におけるロシアの軍事行動に理解を示した。
キルギスは旧ソ連諸国が結成した独立国家共同体(CIS)の加盟国だ。グルジアとウクライナも加盟していたが、ロシアとの紛争をきっかけに脱退している。
一方、アフリカではスーダンおよび中央アフリカ共和国の政府がプーチン大統領の軍事行動に指示を表明。スーダン暫定政府の高官、モハメド・ハムダム・ダガロは「ロシアには国民の利益を追求し、保護する権利がある」と主張した。
しかし、ウクライナ情勢で難しい対応を迫られているのは、プーチン大統領から「親友」とまで呼ばれた習近平国家主席が率いる中国だろう。CNN放送によれば、中国政府はロシアの軍事行動を批判したり、侵攻と呼んだりすることを避けているという。
ところが、『ガーディアン』紙を初めとする報道機関は、中国は何度も外交的な解決を呼びかける一方、軍事作戦を公然と支持するのは避け続けており、このことが中露関係に影を落とすこともあり得るとしている。