イタリア・ナポリ近郊の巨大火山「フレグレイ平野」に噴火の兆しが
5月20日から21日にかけて、ナポリ近郊にあるフレグレイ平野では150度におよぶ地震が記録されたほか、5月29日早朝にもマグニチュード3.6の地震が発生。ナポリ市内や近隣の市町村でも揺れが感じられたという。ここは地域一帯がカルデラをなす巨大火山だが、最近、この場所で何が起こっているのだろうか。
一連の地震は、フレグレイ平野で記録されたものとしては過去40年間でもっとも激しい活動であり、地元当局は警戒を強めている。
ナポリ市周辺にはフレグレイ平野のほか、ヴェスヴィオ山やイスキア島など、火山が複数集まっている。
ヴェスヴィオ山は単独の成層火山だが、フルグレイ平野はそうではない。十数キロメート四方におよぶカルデラの内外には複数の噴火口が横たわっているのだ。
カンパニア州のウェブサイトによれば、カルデラとは「火山活動によって生じる広大な円形の窪地のことで、一般的に直径は1キロメートル以上におよぶ。マグマだまりの上部が大規模な噴火によって陥没することで生じた切り立った崖が特徴」とのこと。
また、フレグレイ平野の火山活動を特徴づけているのは「ブラディサイズム(緩慢地動)」と呼ばれる現象だ。これはマグマの動きに伴って、地面がゆっくりと隆起したり沈降したりを繰り返すというものだ。
しかし、専門家や市民がもっとも懸念しているのは、一帯に位置する多数の噴火口が一斉に活動を再開する可能性だ。
カンパニア州いわく、レッドゾーン(特別警戒区域)内で暮らす住民はおよそ50万人、イエローゾーン(警戒区域)内では84万人に上るため、噴火に備えた対策を講じる必要があるとのこと。
最近観測された「ブラディサイズム」はここ数年でもっとも激しく、市民の間には不安が広がっている。ナポリ近郊のポッツオーリでは、すでに46世帯が仮設住宅に避難したという。
活発化する地震を前に地元当局も警戒を強めているが、専門家たちはナポリ周辺で大規模な噴火が発生する可能性についてどのように考えているのだろうか?
ヴェスヴィオ火山観測所のマウロ・デ・ヴィート所長いわく、「(一連の地震は)我々が注意深く監視している現象の1つです。しかし、現時点では噴火の決定的な兆候は検出されていません」とのこと。
実は、ナポリ周辺では1982年から1984年にかけても今回と似たような現象が観測されたことがある。イタリアのオンライン紙『Open』が報じたところによれば、当時は地盤がひと月のうちに9センチメートル、合計で1.80メートルも隆起したという。しかし、その後この活動は鎮静化し、噴火には至らなかった。したがって、今回も同じようなケースかもしれないのだ。
しかし、『Open』紙によれば、地質学者のマリオ・トッツィ氏は「地震は地殻の応力や、地殻を下から押し上げている物体によるものです。その物体というのがマグマ柱の端にある地熱流体(高温の地下水で液体または気体)なのか、それともマグマそのものが上昇しているのか、現時点ではわかりません。しかし、両者の違いは重要です」と説明。
同氏によれば、もし地殻を押し上げている物体がマグマならば、噴火の危険性もあるという。ただし、今のところマグマは地下5,000メートルの場所に留まっていると見られており、ひとまず「安心できる」とのこと。
同氏はさらに、今回のブラディサイズムも1980年代に起きた現象と同じようなものだろうと述べた。ただし、このような火山帯に多数の住民が暮らしている現状については警鐘を鳴らしている。
トッツィ氏いわく:「数万人もの人々が巨大火山の上に座っているようなものですが、当局はこれを監視したりコントロールしたりするどころか、病院や競馬場、軍の基地、つまりは人口8万人の都市を建設してしまったのです。何かあれば大問題です」
同氏はさらに、地元当局が危険を承知しながら、住宅建設を許可し続けていることを批判、「実際のところ、人々はこんな場所に住み着くべきではなかったし、いつまでも留まっていてはいけないのです」とコメントした。
一方、伊紙『Il Sole 24 Ore』はイタリア国立地球物理学火山学研究所の見解として、マグニチュード5未満の小規模な地震が生じる可能性はあるものの、ブラディサイズム現象は鎮静化しつつあり、徐々に通常の状態に戻るだろうという見通しを伝えている。
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