トランプ元大統領、イーロン・マスク氏との対談でまたもや失言
ドナルド・トランプ元大統領がまったく根拠のない主張を行って物議を醸すのは、もはや米国の日常風景となっている。
トランプ氏は政治家となったここ8年だけでなく、司会者としての40年の間も似たようなことは繰り返されてきた。だが、今回の発言はいままでとは比べものにならないかもしれない。
スペースXやテスラなどの企業を所有するビリオネア、イーロン・マスク氏とトランプ元大統領が、マスク氏のSNS「X」上で対談を行ったのだが、その場でトランプ元大統領が気候変動に関してこれまでになく不適切な認識を示したのだ。
トランプ元大統領は気候変動のもたらす問題は大きなものではないと言いたいらしく、いま騒がれている世界的危機とやらの最も大きな影響は多くの不動産がウォーターフロント物件になるだけだ、と述べている。
画像:X @realdonaldtrump
米政治サイト「The Hill」によると、元大統領はこう語ったという:「いま最大の危機は地球温暖化ではない。400年かけて海面が3mm上昇しても……ウォーターフロント物件が増えるだけだ」
「The Hill」も指摘するように、世界の海面上昇はトランプ元大統領が述べているような水準が見込まれているわけではない。アメリカ国立海洋局が2022年に出したレポートでは、今後30~100年の間に元大統領の予測よりもはるかに大きな変動が起こりえるとされている。
今後30年の間に海面は2000年比で25~30cmの上昇が予測されており、今後100年ではその数値は60~210 cmと見られている。
気候変動に起因する海面上昇に関する知識の不足は置いておくとしても、トランプ元大統領が次に語ったことも問題だ。元大統領によると、いま人類の未来にとって一番危険なのは気候変動ではなく、「核温暖化」というものなのだという。
トランプ元大統領は、いま世界には気候変動よりも気にかけるべき問題があり、それこそが「核温暖化」なのだという。だが、『ニューズウィーク』誌のアネズカ・ピクルトワによると、「核温暖化」という言葉でトランプ元大統領がなにを意味していたのかは明瞭でない。
トランプ元大統領は以前にも「核温暖化」に言及したことがある。6月6日、CNNのインタビュー内で「地球温暖化に関して唯一問題だと思えるのは世界的核温暖化だ。これこそが問題だからだ」と述べている。だが、これもまた、さらなる問題発言を前にすると些細な問題となってしまう。
『ガーディアン』紙によると、トランプ元大統領はマスク氏と、世界は化石燃料から脱却するためにいまだ十分な猶予があるという点で合意したという。トランプ元大統領はマスク氏に「いまはまだ(化石燃料からの)脱却はできない」と語っている。
元大統領はこう続けている:「たぶん、まだ数百年は余裕があるんじゃないか。だれも本当のところはわからないだろうが」この会話ではさらに、両氏が石油・ガス業界をめぐる言説にもの申す一幕もあった。マスク氏によると、そういった業界を悪者にしたて上げるのは間違っているのだという。
「もしいま石油やガスを使うのを止めたら、全員飢え死にして経済は崩壊してしまう」とマスク氏は語っている。ただし、マスク氏も、将来的により持続可能性のあるエネルギー源に移行する必要があるという点は認めている。
マスク氏はこう語った:「まだ時間はたくさんある……急ぐ必要はない。離農を勧めたり、ステーキを食べるなとかそういう基本的なことに口を出す必要もない。農家は自由にさせておけば良い」
両氏によるこのような会話は支持者にとっては痛快だったかもしれないが、気候変動を問題視する活動家にとっては衝撃的なものだった。
『ガーディアン』紙はアメリカの気候変動活動家、ビル・マッキベン氏のコメントを紹介している。それによると、両氏は「愚劣さの新たな領域へと突き進んでいった」のであり、今回の対談は「気候変動に関する史上最悪の会話」だったという。
マッキベン氏以外にも、気候変動を問題視する立場から両氏の会話に思うところがあったという人は多い。気候研究者兼作家のマイケル・マン氏は、かつては気候変動対策のリーダー的存在だったマスク氏に対して、より手厳しい意見を述べている。
マン氏はこう語っている:「気候変動がもたらす破壊的影響は、具体的には山火事や洪水、熱波、強烈なハリケーンなどの自然災害が激化するという形で現れるわけだが、これは現在、すでに10年前の予測を上回っている」
「マスク氏が気候変動否定論者になってしまったのは悲しいことだ。だが、彼はそういう人間なのだ。科学が語ることを文字通り否定している」とマン氏は続けている。今回の対談が大統領選に与える影響は未知数だが、少なくとも、トランプ元大統領のコア支持者たちはあまり気にすることはないのだろう。