イーロン・マスクをツイッター投資家が提訴:米国証券取引委員会も調査を開始
米国証券取引委員会(SEC)は5月27日、イーロン・マスクが4月に行ったツイッター株の取得について調査を開始したと発表。イーロンのやり方に不正がなかったかどうかが焦点となる。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によれば、SECは、イーロンがツイッター株の取得は受動的なものであり、ツイッター社の支配を追求するものではないとする文書を提出していたと主張している。
写真:米国証券取引委員会委員長、ゲイリー・ゲンスラー
しかし、その文書を提出してからわずか10日後、イーロンはツイッター社そのものを440億米ドルで買収しよう試みたのだ。
しかし、SECが問題視しているのはそれだけではない。イーロンがツイッター株の取得について適切に情報公開を行っていなかった疑いがあるのだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、米国では株式の5%以上を保有する個人は、5%に達した時点から10日以内にその事実を公開しなくてはならないという。
SECの書類によれば、イーロンは3月14日にツイッター株の5%を超過したが、4月4日まで情報公開を怠っていたようだ。このことがツイッター投資家たちの怒りを買い、イーロンの提訴につながった。
投資家の一人は『ガーディアン』紙に対して、「イーロンはツイッターに出資しているという情報の公開を遅らせることで相場を操作し、ツイッター株を不当に安い価格で取得したのだ」と述べている。この人物をはじめとする投資家グループは5月25日、サンフランシスコ連邦裁判所に提訴を行った。
『ガーディアン』紙によれば、イーロンは自身が保有するツイッター株の数を適切に報告しないことで、1億5,000万ドルあまり節約することができたという。
これらの問題に加え、イーロンはスペースXの元女性従業員から職権乱用で告訴されている。しかし、イーロンはこれについて、ツイッター社買収を妨害する試みに過ぎないと反論。
とんとん拍子で進んだかに見えたイーロンによるツイッター買収劇。11名からなるツイッター執行部はイーロンと会談を行い、4月25日には買収に応じる決断を下した。
公式声明によるとツイッター社は、4月初旬の株価を38%上回る価格でイーロンに身売りすることで合意。そのころ、イーロンはツイッター株の9.8%を取得し、筆頭株主に浮上していた。
イーロンが同社株を15%以上取得しようとするなら、新株を発行して買収阻止に動くと述べていたツイッター社。しかし、「ポイズンピル」と呼ばれるこの戦略もイーロン相手には効果を発揮しなかったようだ。
『フォーブス』誌によれば、ツイッター社は自社の主要株主たちがイーロンの肩を持つのを目の当たりにすることになった。これには、ツイッター社の株価が数ヶ月間で60%あまり下落していたことも影響しているという。
『フィナンシャル・タイムズ』紙は、買収資金440億ドルを確保するため、イーロンは少なくとも12の銀行から融資を受けていたと伝えている。
イーロンは記者会見で次のように強調している:
「言論の自由は民主主義が機能するための前提であり、ツイッターは人類の未来を左右する課題を議論するためのデジタル広場だ」
「ツイッターには大きな可能性が秘められている」と語るイーロン。「会社やユーザーたちと協力して、ツイッターが本領を発揮できるようにしたい」
アマゾン社のジェフ・ベゾスも『ワシントン・ポスト』紙の買収劇で同様の批判を浴びたが、今回の件についてはテスラ社の事業と中国の繋がりを指摘。ツイッター上で「中国政府がツイッターに圧力をかけられるようになる」可能性について懸念を示した。
イーロンはツイッター社を非公開化、つまり株式市場から上場廃止することを望んでいるという。これによって、ツイッターが市場価値に翻弄されるのを防ぐことができると考えているためだ。
米国の政治風刺番組『デイリー・ショー』によれば、ツイッター社の共同創設者で元CEOのジャック・ドーシー(写真)は同社の株を2%しか保有していないにもかかわらず、取締役会と株主に説明責任を果たさなくてはならなかったという。
『フォーブス』誌が強調しているのは、イーロンが「ツイッターは言論の自由を守ることができなかった」と述べていることだ。イーロンによれば、ツイッターのやり方は「民主主義を弱体化してしまう」というのだ。
衛星放送アルジャジーラが伝えているように、イーロンは自身を「言論の自由至上主義者」と形容している。実際、過去にはツイッター社による規制を批判しているが、ヘイトスピーチが拡大する恐れや言論の自由の限度といった観点から反論も受けている。
「法律を無視するような言論の自由については私も反対だ」ツイッター買収が決まった数日後にこう述べたイーロン・マスク。しかし「私のことを厳しく批判するユーザーにもツイッターに残ってほしい。言論の自由とはそういうことだ」としている。
フロリダ州知事を務めるロン・デサンティスをはじめ、共和党の多くはイーロンによるツイッター買収に好意的だ。保守派のデサンティスは「これでツイッターは詭弁の道具ではなく、言論の自由のための場になるだろう」とツイートしている。
共和党の公式ツイッターアカウントはイーロンに対し、ドナルド・トランプ前大統領のアカウント凍結を解除するよう要請した。しかし、トランプ前大統領本人はツイッター再開に乗り気ではないとされている。
CNBC放送にツイッター買収劇について尋ねられたトランプ前大統領は、「イーロン・マスクは好きだよ。あいつは優秀だ」とコメント。また、ツイッター社については「私は大統領時代、ツイッターのために様々なことをした。それなのに、私をこんな風に扱うとはがっかりだ。再開するつもりはないよ」とも述べている。
『ニューヨーク・タイムズ』紙が指摘したとおり、トランプ前大統領は自前のSNS「Truth Social」の設立を目指している。しかし、イーロンがツイッターの規制緩和を約束したことで、自分の事業計画が台無しになってしまう可能性があるのだ。
ニュースサイト「ブルームバーグ」は、運営方針に関する詳細から執行部の人選まで、イーロンによるツイッター買収にはいまだ不明な部分が多いと指摘。
「ブルームバーグ」は、すでにテスラ及びスペースXを率いるイーロン・マスクが、3つ目の会社でもトップを務める可能性は低いとしている。
いずれにせよ、イーロンがツイッターの運命を左右することになれば、SNSの未来は一変するに違いない。