タリバン政権下のアフガニスタンはいま:経済が崩壊し、人権侵害が横行......
2021年8月15日、首都カブールを陥落させ政権に返り咲いたタリバン。これによって、国を脱出することができなかった人々、とくに女性たちの人権が著しく侵害される事態となってしまった。
タリバン政権下のアフガニスタンでは経済の低迷に伴って何十万人という人々が職を失い、栄養失調も蔓延し始めている。また、ほとんどの女性は働くことができないでいる上、女子教育すら認められていない。
イスラム原理主義組織として知られるタリバンは、2001年アメリカ同時多発テロ事件の報復として行われた多国籍軍による軍事侵攻で政権から追放されていたが、復権の機会をうかがっていたのだ。
2021年5月、米軍がアフガニスタンから撤退。20年におよぶ紛争は終結したが、今度は経済危機に見舞われることとになってしまった。
これは、数十億ドルあまりに上っていた海外からの援助が途絶えたことに加え、タリバン指導部に対する制裁措置、米国によるアフガニスタンの外貨準備の凍結などが重なって引き起こされたものだ。
国連によれば、アフガニスタンでは全人口のおよそ半分、すなわち1,800万人が深刻な食糧危機に直面しており、 400万人の子どもたちが深刻な栄養失調に陥っているという。
アフガニスタンの家族が生き残りをかけて、子供や腎臓を売るケースが後を絶たないとの報告もなされている。
同国はまた、深刻な干ばつに見舞われているほか、2022年6月には大地震が発生。1,100人以上の市民が命を落とした上、多数の被災者を出すなど人道危機はいっそう深刻化している。
しかし、アフガニスタンが抱える問題は経済危機や天災だけではない。タリバン政権下では、とりわけ女性や女子の権利が抑圧されているのだ。
国連アフガニスタン支援ミッションの発表によれば、タリバン政権は恣意的な逮捕・拘束や拷問、超法規的な処刑をはじめ、基本的人権を無視した政策を行っているという。とりわけ、イスラム教シーア派を信仰するハザーラ人など、少数派がターゲットになっているとされる。
同報告によればまた、タリバンがアフガニスタンの大部分で支配権を確立するにつれ、強制結婚などのケースが増加の一途を辿っているようだ。
一方、国際連合児童基金(UNICEF)の報告書によれば女子は中等学校への通学が禁止されており、これによって過去12ヵ月でアフガニスタン経済に5億ドルの損失がもたらされたと見られている。
UNICEFの報告書はまた、女子が中等教育を修了し雇用市場に参入することが認められれば、アフガニスタン経済に少なくとも54億ドル規模の貢献ができるはずだと指摘。
タリバンの政権復帰以来、アフガニスタンの女性たちは働く権利や社会生活の場を次々に奪われている。『ガーディアン』紙によれば、政府関連の仕事からほとんど排除されているほか、給与も大幅に削減され、家庭に留まって「夫を仕事に送り出す」ことが求められているという。
さらに、タリバン政権は2022年5月7日に、女性が公共の場に出る際にはブルカを着用し顔を隠すことを求める法令を可決。親戚の男性または雇用主が女性たちに法令を守らせる責任を負うとされている。万一、女性が公共の場で顔を見せてしまった場合、罰金が科された上で投獄されてしまうという。
複数の報道機関によると、首都カブールをはじめとする比較的リベラルな都市では女性たちがこの政策に対する抗議を行ったが、タリバンによる弾圧に遭い、逮捕や脅迫のリスクに晒されることになってしまった。
タリバンが定めたもう1つの法令は、男性の付き添いなしで女性が長距離を移動することを禁じるというもので、活動家たちから「ジェンダー・アパルトヘイト」だと非難されている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのヘザー・バー副所長はAFP通信に対し、この命令は「女性の自由な移動を制限し、家庭内暴力に直面しても逃げられなくしてしまう」と述べている。
また、LGBTQ(性的マイノリティ)を自認する人々も国外亡命を余儀なくされている。『フォーリン・ポリシー』誌によれば、アフガニスタン国内に残ったLGBTQの人々は電気ショックをはじめとする拷問を受け、死に至る場合もあったという。
国境なき記者団が発表したデータによれば、タリバン政権下のアフガニスタンでは報道機関の43%が閉鎖されており、ニュースや娯楽番組に対する厳しい検閲が行われているという。
アフガニスタンはまた、地域的な武装グループや国際過激派組織の拠点になりつつある。最近、アルカイダ指導者のアイマン・ザワーヒリーが首都カブールで殺害されているが、これはタリバン政権とイスラム過激派グループとの間の結びつきを示す一例に過ぎない。
タリバン政権が多くの問題を抱えているとはいえ、アフガニスタンはまだ、国際過激派組織が自由に活動できるような無法地帯にはなっていない。しかし、米国の国防当局や情報当局の高官たちは、イスラム過激派グループが同国をテロリストの出撃基地に変えてしまう可能性に懸念を示している。
2022年6月、アメリカ中央軍のマイケル・クリラ司令官は、テロ組織がアフガニスタン国内に訓練キャンプを建設中であることを示す情報を米国はすでに掴んでいるとした。