ウクライナ、ロシアへの領土割譲を検討?:国民投票の可能性に言及するゼレンスキー大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領は以前から、ロシアとの停戦のために自国の領土を諦めることは絶対にしないと主張してきた。だが戦争が長期化する中、最近の発言にはこの方針に変化があったのかもしれないと思わせるものがある。
ゼレンスキー大統領は、領土的に譲歩することも可能だが、それは国民投票を通じて支持が得られた場合に限ると語ったのだ。とはいえ、それが実現する可能性はかなり低いという見解も複数のメディアにおいて述べている。
7月31日、ゼレンスキー大統領は仏紙『ル・モンド』や『レキップ』、そしてAFP通信の記者らとのインタビューに応じ、プーチン大統領と相対している以上、領土的譲歩についての国民投票を行うのは「最良の選択肢」ではないと説明している。
『ニューズウィーク』誌によると、ゼレンスキー大統領はこう語ったという:「我々が相手にしているのはプーチン大統領です。もし我々の領土を手にしたら、それはプーチン大統領にとっては勝利ということになります」また、ゼレンスキー大統領はウクライナの領土を諦めることはいずれにせよかなり困難なことになるとも述べている。
ゼレンスキー大統領によると、ウクライナが自国の領土を決して諦めないのはそれが「憲法に対する攻撃」だからだという。「(領土を犠牲にするかどうかは)非常に難しい問題です……ウクライナの憲法に反していますから」
ゼレンスキー大統領は「政権についているものには、領土を諦める権利がない」と述べ、実現のためには国民による要望という形を取るほかないとしている。ただ、大統領がこのように語っているという事実からは、領土の放棄がひとつの選択肢として考えられているようにも見える。
『ニューズウィーク』誌は、ゼレンスキー大統領は領土放棄に関する国民投票を実施することを必ずしも度外視していないと報じている。元ウクライナ兵のアナリスト、ヴィクトル・コワレンコはこれを「政策上の大きな転換」だと指摘、ゼレンスキー大統領の支持率低下につながる恐れがあるとも述べている。
コワレンコは、領土放棄に関する国民投票はロシアとの停戦が絶対条件なうえ、非占領地域が投票に参加することもできないだろうと指摘、「現在の戦況において、ロシア側が攻撃や爆撃を停止する構えがあるかは不明だ」と述べている。
さらに、仮に国民投票が実施に至ったとしても、最近の世論調査を見る限り、いままさに戦火に包まれているとはいえ、ウクライナ国民が領土を犠牲にしてまでロシアとの停戦を選ぶことは考えづらい。
キーウ社会学国際研究所が8月1日に発表した世論調査によると、ウクライナ国民の59%はロシアとの交渉を支持しているが、停戦の条件としてクリミアやウクライナ東部の割譲に反対している国民も60%に上っている。デジタル紙『ニュー・ボイス・オブ・ウクライナ』が報じている。
また、同研究所によると、ウクライナ国民の77%は現状の領土に基づいた停戦交渉を受け入れられないとしている。これもまた、領土放棄に関する国民投票が仮に実施されたとしても、いままでの方針が強化されるだけの結果となるという見方の証拠となっている。
ゼレンスキー大統領は6月18日に、ウクライナはこの戦争を終結させる「明解かつ詳細な」プランを準備していると述べている。直前にスイスで開かれたウクライナ平和サミットの結果を受けてのもので、2024年中には同サミットの第2回を開くことも計画されている。
先述の仏メディアとのインタビューにおいてゼレンスキー大統領は、第2回ウクライナ平和サミットにはロシア側の代表者も参加するべきだと述べている。その場を利用して、ウクライナが提示した10項目の和平案に対するロシア側の対案を示すべきだというのだ。『ニューズウィーク』誌が報じている。
ゼレンスキー大統領が10項目の和平案を最初に提示したのは2022年11月のことだ。10項目には全ロシア兵のウクライナ領からの撤退も含まれており、発表時点ではロシア側がこの条件に合意することは考えづらかった。
ウクライナ平和サミットに先立ち、プーチン大統領もロシア側としての和平案を提示、2022年にロシア側が一方的に併合を宣言した地域からウクライナ軍が撤退することを求めた。なお、案が出された時点ではロシアは一連の地域を部分的にしか支配していなかった。
表向きの主張はどうあれ、『ニューズウィーク』誌のブレンダン・コール記者は「停戦交渉再会の機運は高まり続けている」と述べている。だが、和平交渉が実際に再開する具体的な見通しはいまだ立っていない。