ガンとの闘いに新たな光:ワクチン臨床試験が成功
ガンとの闘いに希望が見えてきた。今年4月、アメリカがん協会のイベントで、大手製薬会社のBioNTechが、開発中のガン予防ワクチンの臨床試験結果を発表したのだ。そして、その結果は非常に期待の持てるものだったという。
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『フォーブス』誌は「メッセンジャーRNAを用いたガン治療:新型コロナウイルス用ワクチンで成果を挙げたBioNTech社が期待の持てるデータを発表」という見出しで記事を掲載。カギとなるのはメッセンジャーRNAだ。これは新型コロナウイルス用ワクチンで成果を挙げている手法であり、ガンに対する効果が期待されている。
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アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、メッセンジャーRNA技術とは「体内で免疫反応を引き起こすタンパク質を人体の細胞に製造させる技術」だという。
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具体的には、リボ核酸(RNA)を操作することにより、特定の病気に対応する適切な抗原を作り出すための「マニュアル」を細胞にもたらす技術だ。新型コロナウイルスに対して成果を挙げたこの方法は、ガンに対しても効果があると考えられている。
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BioNTech社が試験中の治療法は、CAR-T細胞がガン細胞を認識して排除できるよう「教育」するというものだ。必要な情報をワクチン経由でCAR-T細胞に渡すことにより、人体はその他の治療なしでも自発的にガンと闘うことができるようになるのだ。
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患者には、まず一定量のCAR-T細胞が投与され、続いてワクチン接種が行われる。このワクチンにはCAR-T細胞がガン細胞を認識して排除するよう促すタンパク質が含まれているのだ。
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期待の持てるニュースではあるが留意すべき点もある:臨床試験の対象はたった16人だったのだ。そのうち5人は6ヶ月で腫瘍の縮小が確認され、もう1人はガンの痕跡が消えていたという。
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このように少ないサンプル数で臨床試験は成功したと言えるのだろうか?BioNTech社によれば、同社の試験で被験者の一部に効果が見られたのは、偶然や間違いではない。残されているのは技術を改良し、CAR-T細胞がガン細胞を効率的に認識・排除できるようにすることだ。
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メッセンジャーRNAを利用した手法の開発に取り組む研究所によると、この技術はマラリアや肝炎など、その他の病に対するワクチン開発にも応用できる可能性があるという。
メッセンジャーRNAを利用する治療法は、数十人の研究者によるいくつもの発見に基づいている。南アフリカ生まれの生物学者、シドニー・ブレナー(ノーベル賞受賞者)が1961年に先駆的な実験を行ったほか、最近ではドリュー・ワイスマンとカタリン・カリコ(写真)が新型コロナウイルス用ワクチン開発の基礎となる重要な貢献を行った。
しかし、ガンワクチンの開発を目指しているのはBioNTechだけではない。Sky News放送によると、中国の研究所でもメッセンジャーRNAを用いた手法がマウスの黒色腫を使った実験で大きな成果を挙げているという。
中国で試験が行われているのは、腫瘍を縮小させ、転移を阻止するためのハイドロゲルだという。
期待されるもう一つの目標はエイズに対するワクチンの開発だ。ウェブサイト「ビジネス・インサイダー」によれば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のワクチンおよびヒト免疫学部門の副所長、リンダ・スチュワートは「可能性は無限大だ」と述べているという。しかし、HIVは変異や適応の能力を備えた非常に手強いウイルスであり、今のところ効果的なワクチンはできていない。一方で、患者が通常の生活をできるようにする治療法や、完治も可能な新たな治療法も開発されている。
前出のビジネス・インサイダーによると、メッセンジャーRNAを利用した技術が応用できる病は、心臓発作からヘビの咬傷まで幅広いという。遺伝子を組み換えることで、人体の細胞は多様な病原体に立ち向かうことができるようになるためだ。
では、この技術によってあらゆる病気が一掃されるのだろうか?もちろん、そんなことはない。たとえば、ガンには膨大な種類があるが、各々に対して問題の細胞を認識して排除する「専用マニュアル」となるワクチンを開発しなくてはならないのだ。
とはいえ、BioNTechが公表した臨床試験の結果は将来性のあるものだ。『フォーブス』誌上でロバート・ハートが述べているように「より大規模で長期にわたる試験では、副作用など新たな問題が浮かび上がる可能性もある」。しかし、BioNTechの共同創設者、オズレム・テュレジ(写真)によれば、この手法が機能し、中長期的に大きな成果を挙げるのは間違いないとのことだ。