欧州を脅かす極右勢力の台頭:オランダ、ハンガリー、イタリア、フランス、ドイツ……

オランダで極右が勝利
極右勢力が支持を拡大
険しい道のり
EU離脱やコーラン禁止は不可能?
極右・ポピュリズム支持の風潮
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相
「移民による侵略」と「ジェンダー・プロパガンダ」
イタリアのジョルジャ・メローニ首相
性的マイノリティに対する強硬姿勢
同性カップルの親権剥奪
極右3党が議会に(ギリシャ)
フランスではマリーヌ・ル・ペン党首が支持拡大
「最大のリスク」はイスラム主義
英国における極右とポピュリズム
スロバキアのポピュリスト政権
ポルトガルの「シェガ!」党
オーストリア自由党が台頭
過激なプロパガンダ映像
ナチス賛美?
一方、ドイツでも……
デモの弾圧
ベルギーにおけるフラマン人民族主義
フラームス・ベランフ党
ベルギー分裂の危機?
「ベルギーは強制結婚させられた夫婦のようなもの」
北欧諸国でも……
極右勢力が後退した国も
サンチェス首相に対するデモ
放火や警察との衝突
ファシズムを礼賛するデモ参加者たち
ダブリンで発生した暴動
反移民感情の高まり
ホームレスのテントに放火
かつてない難民危機
極右政党がこぞって掲げる移民排斥政策
EUを内側から変容
EUはその原則を変えるだろうか?
オランダで極右が勝利

2023年11月にオランダで総選挙が行なわれ、ヘルト・ウィルダース党首率いる自由党(PVV)が、EU懐疑論・反イスラム主義・移民の受け入れ制限を掲げて以前の2倍以上にあたる37議席を獲得、第一党に躍進した。

 

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極右勢力が支持を拡大
『ガーディアン』紙の欧州特派員、ジョン・ヘンリー記者いわく:オランダ総選挙でヘルト・ウィルダースが劇的な勝利を収めたという事実は、ヨーロッパにおける極右・ポピュリスト政党の台頭を裏付けるものだ」
険しい道のり
ただし、多くのアナリストたちが指摘しているとおり、ウィルダース党首が議会における過半数を取り込んで組閣するには、他の政党との連立が不可欠であり、道のりは険しいと見られている。
EU離脱やコーラン禁止は不可能?
また、ウィルダース党首が連立交渉をまとめて政権を握ることができたとしても、これまで繰り返してきたような過激な主張が実施される可能性は低い。前出のヘンリー記者いわく:「3、4党あるいはさらに多くの政党と妥協や譲歩を繰り返せば、コーランの禁止やEU離脱を問う国民投票といった過激なマニフェストは、その大部分が政権の方針から外されることになるはずだ」
極右・ポピュリズム支持の風潮
とはいえ、「オランダのトランプ」と揶揄されるウィルダース党首が総選挙を制したことで、極右・ポピュリズムを支持する風潮がヨーロッパ全体に拡大している現状が改めて浮き彫りになった。
 
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相
ウクライナのEU加盟に強く反対し、ヨーロッパは「他人種と混血すべきではない」と述べるなど、強硬
な姿勢で知られるハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相も、オランダ総選挙の結果を受けて「ヨーロッパは目覚めつつある」と言うコメントをX(旧Twitter)上に投稿、ウィルダース党首を祝福した。
「移民による侵略」と「ジェンダー・プロパガンダ」

ロイター通信の報道によれば、オルバン首相は党員たちを前にして「我が党はブリュッセルの役人たちの常軌を逸した考えや移民による侵略、ジェンダー・プロパガンダに抵抗し、戦争に対する幻想や資格もないのにEUに加盟しようとするウクライナに反対しなくてはなりません」と述べたとされる。

 

イタリアのジョルジャ・メローニ首相

一方、イタリアでは、ネオファシズムに端を発する政党「イタリアの同胞」を率いるジョルジャ・メローニ党首が首相に就任。ロイター通信によれば、第二次世界大戦後のイタリア政治においてもっとも右寄りの政権だという。

 

性的マイノリティに対する強硬姿勢
ニュースメディア「ポリティコ」によれば、メローニ首相は就任後に移民政策に関する姿勢を改めており、移民150万人を合法的に受け入れるため法整備を行ったとのこと。ただし、性的マイノリティに反対する姿勢は一層強化しているようだ。
同性カップルの親権剥奪
2023年8月、メローニ首相は、出生証明書に記載する両親の名を実の親のものに限るよう議会に要請。複数のメディアによれば、これによって同性カップルが両親となっているケースは法的扱いが不透明になると見られる。
極右3党が議会に(ギリシャ)

ギリシャでは6月の選挙で極右3党が議席の12%を獲得。中東衛星放送アルジャジーラは、そのうちのひとつスパルティアテス党について、悪名高いネオナチ政党「黄金の夜明け」の広報担当だったイリアス・カシディアリスの支援を受けていると報じた。なお、カシディアリスは現在服役中で、「黄金の夜明け」は裁判所から犯罪組織であると認定されている。

フランスではマリーヌ・ル・ペン党首が支持拡大

フランスでも極右政党を率いるマリーヌ・ル・ペン党首が支持を拡大。仏BFM放送が伝えた最近の調査結果によれば、仮にいま大統領選挙が行われたとしたら、ル・ペン党首は55%の得票率でマクロン大統領を破るはずだというのだ。

 

「最大のリスク」はイスラム主義

パレスチナ情勢が悪化の一途をたどる中、ル・ペン党首は2027年に自身4度目となる大統領選出馬を控えており、同氏の率いる国民連合は「最大のリスク」たるイスラム主義からユダヤ系フランス人たちを保護すると主張している。

英国における極右とポピュリズム

また、英国もここ最近は極右やポピュリズムの影響下にあるという見方が、一部アナリストを中心になされている。たとえば、EU離脱キャンペーンで展開された自国中心主義や保守党が掲げる反動的な方針、スナク首相が企てていた移民のルワンダ移送計画(のちに裁判所が違法と判断)など、右傾化の兆候は枚挙に暇がない。

スロバキアのポピュリスト政権
スロバキアではロベルト・フィツォ政権が誕生。フィツォ大統領自身は左派政党のトップだが、連立政権内に極右勢力スロバキア国民党を抱えるほか、移民や性的マイノリティの権利には反対の姿勢を貫いている。
ポルトガルの「シェガ!」党

ポルトガルでも第3党の「シェガ!」が人種差別的な発言や移民反対の主張を繰り返しているが、ユーロニュース放送によれば、当人たちは極右というレッテルを嫌っており、むしろポピュリズム政党として扱われることを好んでいるとのこと。

オーストリア自由党が台頭
また、オーストリアでは複数の世論調査によって、来年行われることになっている大統領選挙を制するのは極右・ポピュリスト政党のオーストリア自由党(FPO)だという見方が広がりつつある。
 
過激なプロパガンダ映像
AFP通信によれば、2023年9月には同党の青年部が過激なプロパガンダ映像を制作し波紋を呼んだという。ヨーロッパでは白人が移民に置き換えられつつあるという陰謀論に、炎上するノートルダム聖堂の映像を組み合わせた内容だったのだ。
ナチス賛美?

さらに、この映像には青年部メンバーたちが松明を掲げて行進する様子も映し出されたが、その場所が問題だった。彼らが整列したバルコニーは、1938年のオーストリア併合の際にヒトラーが演説を行った場所だったのだ。

一方、ドイツでも……
一方、ドイツでも極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が伸長。ニュースメディア「ポリティコ」によれば、同党は最近の世論調査で第2位に浮上しており、潜在的な支持者の数で言えば連立政権を担うどの政党よりも多いと見られるとのこと。
デモの弾圧
ドイツではガザ地区の惨状を憂い、パレスチナとの連帯を掲げる平和的なデモが行われたが、独メディアによれば参加者数百人が逮捕されたほか、当局による暴力もあったと報じられている。
 
ベルギーにおけるフラマン人民族主義
隣国のベルギーでは、2024年6月に行われる選挙でフラマン人民族主義を掲げる勢力が大幅に議席を伸ばすと見られている。
フラームス・ベランフ党

ニュースメディア「ポリティコ」の世論調査で、北部フランドル地方の分離独立を主張するフラームス・ベランフ党がベルギーでもっとも支持を集めていることが判明したのだ。

 

ベルギー分裂の危機?

ベルギーでは以前から、フラマン語圏のフランドル地方とフランス語圏のワロン地域の間に溝があったが、過激な民族主義勢力の台頭でさらに大きな対立につながる可能性もある。

 

「ベルギーは強制結婚させられた夫婦のようなもの」

フラームス・ベランフ党のトム・ヴァン・グリーケン党首(写真右)はニュースメディア「ポリティコ」に対し、「ベルギーは強制結婚させられた夫婦のようなものです。片方が離婚を望むなら一人前の大人として協議する必要があるでしょう。しかし、あちらが交渉のテーブルに着かないのであれば、一方的に実行するほかありません」とコメントしている。

北欧諸国でも……
積極的な移民の受け入れで知られてきた北欧でも、最近は極右の台頭が目立つ。実際、フィンランドとスウェーデンでは極右勢力が政権を運営しているのだ。
写真:スウェーデン民主党のジミー・オーケソン党首
極右勢力が後退した国も
一方、ポーランドやスペイン、アイルランドなど極右勢力の後退が見られる国もある。ただし、国民の間で極右を支持する風潮が薄れたのかというと、そういうわけでもなさそうだ。
サンチェス首相に対するデモ

スペインメディアによれば、同国では社会労働党のペドロ・サンチェス党首がカタルーニャ独立派の恩赦と引き換えにからくも首相再選を果たしたことに抗議して、党本部前で4,000人規模のデモが発生。

 

 

放火や警察との衝突

スペイン当局によれば、極右政党「VOX」の支援を受けた抗議デモは警察との暴力的な衝突に発展。ゴミコンテナが放火されたほか、逮捕者も7人出たとのこと。

ファシズムを礼賛するデモ参加者たち

また、地元メディアの映像にはナチスの旗を掲げるデモ参加者や、ファシスト政党ファランヘ党の党歌でフランコ政権時代に国歌となったカラ・アル・ソル」を合唱する人々の様子が映っていた。

ダブリンで発生した暴動
同じころ、アイルランドの首都ダブリンでは推定500人規模の暴徒たちが市内中心部で猛威を振るっていた。この暴動は、子供3人が刃物で刺され救急搬送されるという事件に関連して発生したもので、犯人は「不法移民」だという未確認の情報が発端だった。
反移民感情の高まり

AFP通信の取材に応じたソーシャルワーカーによれば、暴徒たちは数時間にわたって車両に放火したり、店舗を破壊したり、警官に暴行を加えたりするなど「ここ数十年のダブリンで最悪となる暴力」に訴えたが、SNS上で根拠のない反移民感情が拡散していることを思えば、この事態も驚くべきことではないという。

 

ホームレスのテントに放火

『アイリッシュ・タイムズ』紙は、5月にも反移民デモの参加者がダブリンでホームレスの難民が暮らすテントに放火したと報じている。

かつてない難民危機

アイルランドのレオ・バラッカー首相は、今回の暴動について「アイルランドの恥だ」と述べ、暴力は「私たちのあり方ではない」と釈明した。しかし、AFP通信によれば、6月にはアイルランドの現状について「かつてない難民危機に直面している」という発言をしたという。

極右政党がこぞって掲げる移民排斥政策

『フィナンシャル・タイムズ』紙で外交関係の論評を統括するギデオン・ラックマン氏によれば、ヨーロッパの極右政党がもつ「顕著な特徴」は「移民、とりわけイスラム教徒に対する強い敵意」であり、「従来は不寛容で違法、非現実的だとして退けられてきた移民排斥政策を積極的に検討すること」だとしている。

 

EUを内側から変容
ラックマン氏はまた、ヨーロッパにおける極右勢力の特徴として欧州懐疑主義を挙げているが、こういった政党はEU離脱を目指すよりも内部からEUを変えようとする可能性のほうがはるかに高い」と指摘。
EUはその原則を変えるだろうか?
同氏いわく、「彼ら(極右勢力)はEUが推し進める人権法や難民条約の遵守といった政策を変えようと狙っている」とのこと。そして、このような勢力が各国の政治を牛耳るようになれば、ヨーロッパは「近い将来、現在とはまったく異なるケダモノ」になってしまうかもしれないと懸念を示した。

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