83人以上を殺めたロシアの連続殺人鬼、ウクライナ戦争への参加を希望
格子の向こうのこの男は、ロシアの牢獄で刑期を務めている。1992年から2010年にかけて83人の女性を殺害した罪で、2度の終身刑を言い渡されているのだ。囚人の名はミハイル・ポプコフ。『デイリー・メール』によると、彼は入隊を志願しており、ロシアのためにウクライナで戦うことを希望している。
この囚人は「狼男」と呼ばれている。狙うのは決まって女性で、実際の犠牲者数は200人に達している可能性があると捜査当局は見ている。
ミハイル・ポプコフは非常に暴力的な方法で殺人を犯した。被害者は金づち、斧、スコップなどで死に至る。だが、日常生活におけるポプコフは立派な一市民として通っていた。彼は警察官で、妻と一人の息子がいた。仕事では、自身が犯した犯罪の捜査を任されることもあった。
『デイリー・メール』は、ロシア国営テレビがミハイル・ポプコフに行ったインタビューの模様(放送は今年1月)を伝えている。「あなたの夢は何ですか」という質問に対し、ポプコフはこう答えた:「(夢は)軍隊に入ることだ。刑務所に入って10年になるが、特に問題なく(兵士に必要な新技術を)身につけることができると思う」
ミハイル・ポプコフの申し出は、狂った幻想などではない。現にロシアの民間軍事会社「ワグネル・グループ」は、受刑者を雇って前線に派遣している。『ニューヨーク・タイムズ』が報じるように、戦争に行った受刑者の幾人かはのちに赦免されたらしい。少なくとも、ワグネル・グループはそのように喧伝しており、ロシア当局もそのことをはっきりとは否定していない。
『デイリー・メール』の概算では、およそ40万人の受刑者がすでにウクライナの戦地に向かった可能性があるという。
ミハイル・ポプコフのような犯罪者がロシア戦列に加わってウクライナと戦うということになれば、スキャンダラスであるのみならず、50歳より上の者は募兵しないというワグネルの規定を破ることにもなる(ポプコフは58歳)。それでもなお、ロシア国営テレビの異常なインタビューは、見る者の心をざわつかせる。政治的プロパガンダなのか、放送内容がどぎついだけなのか、どちらとも判断がつきかねるからだ。
そのインタビューのなかで、ミハイル・ポプコフは悔悛の情について、きわめてあいまいな表現をした。ポプコフは「後悔している」と明言せず、それを仄めかすにとどめている:「私には後悔すべきことが多くある。たとえば、私が(それらの行為を)やらなければ、このようなことはどれも起こらなかったはずだ。(…)人間は誰しも、後悔をしたがる。それは自然な欲求だ。私には(それについて)考える時間がたっぷりとあった」
だが、ミハイル・ポプコフの犯罪行為に対しては、いかなる形であれ赦しを与えることは困難だ。彼は何人もの女性をシベリアの森に連れて行き、ひどく陰惨な暴力で痛めつけ、はては撲殺したのである。
「身持ちの悪い女たち」を、自分が住まうロシアの片隅から「取り除く」ことが、ポプコフが取り憑かれていた強迫観念だった。
西側諸国の反応を考えると、連続殺人鬼がロシアの戦列に加わることは、プーチン大統領にとって格好の宣伝材料ではない。だが、ワグネルに顕著なように、戦争に勝利するため手段を選ばず、使える人員であれば過去の犯罪歴は問わずという流れが非常に強くなっており、ポプコフの件はその流れの一端でもある。
ところで、ワグネルが約束する「罪の帳消し」が果たして本当なのかという疑惑もある。ウクライナでの戦闘に従事して自由の身となった服役囚がいる、とワグネルは請け合うのだが、『ニューヨーク・タイムズ』はそのことにふれた上で、赦免を決定できるのはクレムリンだけであり、当局はこの点に関して正式な認可を与えていないと報じている。
ウクライナ戦争の兵士としてワグネルが集めた4万人という受刑者は、数だけで言うとロシア連邦の受刑者全体の10%以上を占める。ワグネルの勧誘は広く受け入れられたのだ。
ワグネルという組織の成り立ちは『特攻大作戦』のような映画にヒントを得ているように思われる。その映画は、囚人たちの寄せ集めチームを第二次世界大戦の英雄に鍛え上げるという筋書きだ。
確かなのは、冷酷な傭兵部隊というスタイルをワグネルが誇示していることである。そこでは、受刑者たちが最前線に送られ、残酷な規律のもとで簡単に処刑されることもある。
ミハイル・ポプコフが求めているのは、牢獄を後にしてふたたび人を殺めることである。ただ、今回は祖国ロシアのための人殺しであり、戦争の英雄になれるかもしれないという違いはあるが。連続殺人鬼が兵士として最前線に送られる、それはまさに、戦争の狂気がもたらす邪悪ないびつさだといえるだろう。