世界でもっともキュートフェイスな航空機:空飛ぶイルカ「ベルーガ」とは
飛行機を見て「かっこいい」という人は少なくないが、「可愛い」と思う人は少数派ではないだろうか。しかし、エアバス社「ベルーガ」の愛敬あふれるフォルムには「可愛い」と言葉がふさわしい。
2024年5月下旬、このベルーガに関連する重大な発表がなされ、愛好家たちはがぜん色めき立つことになった。その発表とは、「エアバス・ベルーガ・トランスポート」という貨物輸送会社が創設されるという知らせである。
エアバス・ベルーガは大型の貨物機である。イルカのようなユニークなデザインと、大容量の貨物輸送能力によって知られている。運用が始まってからおよそ30年、航空業界で働く人々や航空マニアたちを魅了しつづけてきた。
この大型貨物機はそもそも、エアバス製航空機の大型部品を輸送するという目的をもってデザインされた。ヨーロッパやトルコに点在する製造工場から、最終的な組み立てを行う工場へと大型部品を運ぶための足として働いていたのだ。しかしこのたび、一部のエアバス・ベルーガが「エアバス・ベルーガ・トランスポート」という新会社のもとで新しい仕事を始めることが発表された。
CNNの報道によると、「エアバス・ベルーガ・トランスポート」社の責任者であるブノア・ルモニエ氏は、ベルーガの持つ強みについて次のようにコメントしている。「特大サイズの貨物を扱える業者はとても限られています。ほとんどの場合、そのような品を貨物機に積み込むときには部分的に分解しなければなりません。しかしベルーガであれば、分解せずともすっぽり収めることができます」
CNNが指摘しているように、運航が始まったばかりのころ、ベルーガは「ベルーガ」ではなく「エアバス・スーパー・トランスポーター」と呼ばれていた。しかしほどなく、機体のフォルムがシロイルカを思わせることから「ベルーガ」(シロイルカの別名)の愛称で親しまれるようになり、エアバス社もその愛称を気に入ったのか、正式名称を「ベルーガST」に改名したのである。
ベルーガの初代モデルは1995年から運航がはじまった。その後の数年間で、4機がさらに製造された。
前出のブノア・ルモニエ氏はCNNに対し、ベルーガの特異性について語っている。「とても特別なデザインです。A300-600型機を改造したものなのですが、機首部分をまるごと取り外して特別な胴体用外板をとりつけ、ドアも収納空間も大きくとってあります」
エアバス社は現在最新モデル「ベルーガXL」を製造している。ブノア・ルモニエ氏によると、「ベルーガXL」は初代ベルーガの元になっているA300-600型機よりずっと新式のA330型機をベースにしたものであり、サイズの面でも収容力でも旧型ベルーガにまさっているという。
ところで、このイルカのような飛行機の乗り心地はどういったものなのだろう? ブノア・ルモニエ氏がCNNに語るには、それはやはり独特であるらしい。「機首が大きく膨らんでいるせいで、風の影響を敏感に受けます。パイロットはそのことを考慮に入れた特別なトレーニングをしなければなりません」
しかし、巨大な頭部が風にあおられやすいことを別にすれば、「ベルーガST」は基本的にA300-600型機と似たような飛び方をするという。コックピット(操縦室)はほぼ同じつくりをしている、とブノア・ルモニエ氏は語っている。
繰り返しになるが、ベルーガが担うのは貨物輸送であり旅客輸送ではないので、新会社が設立されたからといって、観光客やビジネス利用者がすぐに乗り込めるようになるわけではないだろう。
それでも、エアバス社がベルーガを核とする貨物輸送会社を立ち上げたことは、航空ファンにとってわくわくさせられるニュースである。これまでは限られた地点を結ぶだけだったベルーガが、ぐっと身近な存在になってくれるかもしれないからだ。あなたの近所の空港にも、いつか幸せのイルカがやってくるかもしれない。