ウソを見破ることはできる?:心理学によるアプローチ
小説家カルロス・ルイス・サフォンいわく:「真実を伝える理由はあまりないが、嘘を吐く理由は無数にある」実際、嘘つきに対処しなくてはならなかったという経験は誰にでもあるだろう。では、どうすれば嘘をその場で見破ることができるのだろうか?
心理学誌『InMind』に嘘に関する論文を投稿したジャニーナ・シュタインメッツ博士とアン=クリスティン・ポステン博士によれば、嘘は「白い嘘」と「黒い嘘」の2種類に分けられるという。
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「白い嘘」とは、他人に不快な思いをさせたり、がっかりさせたりするのを避けるためといった、良心に基づく嘘のことだ。一方、「黒い嘘」は不当に利益を得たいという悪意によるものであり、相手に害を及ぼすことも少なくない。
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この定義に従えば、白い嘘が些細なことであるのに対し、黒い嘘は許しがたいものに思えるだろう。ところが、前出の研究者2人によれば、必ずしもそうとは限らないようだ。
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新しい髪型が似合っているか尋ねる友人に、たとえ本心からでなくとも「似合っている」と答えるのは別に悪いことではないだろう。
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しかし、白い嘘が良くない結果をもたらしてしまうこともある。たとえば、アンケート調査の際に人々が実際に感じていることを答えず、きれいごとばかり並べたとしたら、この統計は実態を表さない無意味なものになってしまうのだ。
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追い詰められてストレスを感じると、人間は自分の行動の結果について深く考えずに嘘をついてしまうという。このことはアムステルダム大学で行動倫理学を教えるシャウル・シャルヴィ教授の研究によって明らかになっている。
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シャルヴィ教授いわく:「人間は急いでいると自分が得するために何でもやろうとしますが、これは嘘に繋がってしまうことがあります。一方、時間に余裕があると、嘘をついた場合の結果についてじっくり考えることができるわけです」
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一方、黒い嘘についてはこの限りではない。というのも、黒い嘘を吐く人はそれがどのような結果をもたらすのかを理解した上で、あえて悪意のある嘘を吐いているためだ。
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前出のジャニーナ・シュタインメッツ博士とアン=クリスティン・ポステン博士によれば、嘘を吐いたり他人を欺いたりするのは本人にとっても心理学的に高くつくようだ。そして「嘘の代償は、その人自身の価値観と密接にかかわっている」という。
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たとえば、誠実さに重きを置く人の場合、嘘をつくことで大きな心理的ダメージを受けることになる。さらに、嘘をつく相手が大切な人だと、さらに心理的代償は大きく感じられるだろう。
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では、自分自身を欺くような嘘はどうだろうか?このような嘘は自分の能力の過大評価につながることがあり、重大な結果を招いてしまうことになりかねない。
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このことはハーバード・ビジネス・スクールの研究者ゾーイ・チャンスが76人の学生を対象に行った実験によって実証されている。数学のテストでカンニングを認められた学生たちは自力で問題を解けたと勘違いし始め、もっと難しいテストをこなすことができると思い込んでしまったのだ。無論、それは実態とはかけ離れていた。
ここまでは人が嘘をつく理由について見てきた。では、相手が嘘をついているかどうか見破るにはどうしたらよいのだろうか?嘘を見破る方法にはデマも少なくない。ここでは、心理学に基づいて嘘の兆候を捉える方法をご紹介しよう。
相手の目を見つめれば嘘が見破れるというのはよく聞く話だが、実際にはそううまくはゆかない。現実の世界では、TVドラマ『ライ・トゥー・ミー 嘘は真実を語る』のようなことは起こり得ないのだ。
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ハートフォードシャー大学のリチャード・ワイズマン教授が、本当の話をしている人と嘘をついている人を比較するために行った実験によれば、瞳の動きから嘘を見破るのは全く不可能であるという結論が得られている。
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また、心理学者たちによれば自白剤は存在しないという。自白剤であると見なされることの多いチオペンタールを利用しても、実際に噓を見破ることはできない。このような薬剤の効果によって心理的なブレーキが利かなくなり、口数が増えるのは事実である。しかし、その内容に嘘が含まれているかどうか確かめることはできないのだ。
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そして、人体に接続して嘘を100%見破るような嘘発見器は存在しない。また、ポリグラフも十分な信頼性があるとは言えず、多くの国で裁判における証拠として認められていない。
ポリグラフが測定するのは、質問を受けた被験者のストレスおよび不安のレベルだ。そのため研究者の多くは、被験者が物に動じない人物だった場合、ポリグラフ検査を容易に切り抜けることができてしまうと考えている。一方、プレッシャーに弱い被験者だと、嘘を吐いていなくてもポリグラフが反応してしまうことがあるわけだ。
嘘つきを見破るとされる方法は他にもある。スペイン、グラナダ大学の研究者はサーモグラフィーを利用したテストを考案しており、80%の精度で嘘を見破ることができるとしている。
この研究によれば、「ピノキオ効果」を測定して嘘を見破るには、顔にある2つの部分に着目する必要があるという。額と「ピノキオ」の象徴、鼻だ。
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この方法について、主任研究員のエミリオ・ゴメス・ミランは次のように説明している:「人は嘘をついているとき鼻の頭の温度が0.6~1.2℃低下します。一方、額の温度は0.6~1.5℃上昇するのです。したがって、この2つの部分の温度差が大きいほど、被験者は嘘をついている可能性が高いわけです」
この研究は、ポリグラフの利用と合わせて、研究の場や警察の捜査では役立つかもしれない。しかし、一般人が日常生活の場で活用するのは難しそうだ。温度計を持ち歩き、他人が話すたびに額や鼻の温度を測定するわけにはいかないのだ。
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実際、相手が本当のことを話しているのか嘘を吐いているのか確実に見分けることはできないという見解で、多くの学者たちは一致している。しかし、諦めるのはまだ早い。嘘を見破るコツがないわけではないのだ。
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では、嘘をあばくという難しい課題に役立つコツを順番に見てゆこう。まずご紹介するのは、ポーツマス大学の心理学者アルダート・フライ教授が著書『Detecting Lies and Deceit: Pitfalls and Opportunities』で解説している方法だ。
フライ教授によると、次のようなステップを踏むだけで嘘に気づくことができるという。
1:疑いを持つ
2:カマをかける
3:要点には触れないようにする
4:情報を集め、書き留める
5:相手に話の一部を繰り返すよう促す
6:注意深く話を聞き、様子を観察する
7:異なる状況における相手の行動を比較する
簡単かつ実践的だ。
嘘の兆候について研究を続けるフライ教授は最近、「嘘および本当の発言に2次的なタスクが及ぼす効果」という論文を発表した。これは一体どのような研究なのだろうか?
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専門誌『International Journal of Psychology and Behavior Analysis』 に掲載されたこの研究によると、嘘を見破るには相手の気を逸らして、こちらが嘘を見破ろうとしていることを悟られないようにしなくてはならないという。では、具体的にはどうすればよいのだろう?それは、相手が「2次的なタスク」に気を取られるように仕向ければよいのだ。
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2次的なタスクを遂行しながら嘘の辻褄を合わせるのは、平均的な脳の持ち主にとって大きな負担になってしまうからだ。フライ教授は「嘘つきは嘘の話を続けることよりも(2次的な)タスクに気を取られてしまう」と解説している。
別のタスクを同時に行っている場合、嘘をついている人は素早く反応することができないばかりか、不明瞭で釈然としない答えを返すこともあったという。また、フライ教授いわく、2次的なタスクが難しいものになればなるほど嘘をつき続けるのも難しくなる。たとえば、曲がりくねった山道を運転しながら嘘をつくのは非常に難しいということだ。
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というわけで、嘘を吐くには細心の注意が必要だ。もちろん、出会い系サイトで年齢や身長を誤魔化すといった他愛ない嘘もあるだろう。しかし、ミシガン大学のニコール・エリソン教授の研究では、このような方法で相手とマッチングしても、相手が事実に気づいてしまえば2度目のデートはないことが示唆されている。
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