ウクライナ軍、旧式の米ミサイルを防空ミサイルへと転用し有効活用
アメリカとウクライナの技術者が協力し、旧型の短距離空対空ミサイルを強力な地対空兵器に改造。ウクライナの空を守る頼れる兵器として生まれ変わった。
今回改造されたのはアメリカのAIM-9「サイドワインダー」だ。開発されたのは1940年代で、50年代に配備が始まった。軍事ニュースサイト「Military Today」いわく、サイドワインダーは疑問の余地なく「最も有名であり、優れた空対空ミサイル」だという。
サイドワインダーはいまだ現役で、生産も配備も続けられている。だが、旧型モデルの中には倉庫の中で眠っているものもある。今回ウクライナに供与されたのはそういった、いまでは使われなくなっていたものだ。
ウクライナ高官はAP通信の取材に対して次のように述べている:「今回供与されたのは引退したモデルです。私たちはそれに手を加え、地上から発射できるようにしました」
その高官はさらに、改造したサイドワインダーはいわば「自作の防空システム」であり、迫りくる冬の季節にウクライナの空を防衛するのに役立つと語っている。というのも、寒くなるにつれて、ロシアはふたたびウクライナのエネルギー網の寸断を狙うことが予想されているからだ。
侵攻開始後初の冬となった昨冬、ロシアはウクライナ全土のエネルギー網を攻撃した。市民への電力供給を断つことで停戦交渉のカードとしようとしたと見られている。
米シンクタンク「ウィルソン・センター」のアンドリアン・プロキップによると、2022年10月にウクライナが被ったエネルギー網への攻撃は大型のものだけでも15以上に渡り、より小規模なものも含めると何十もの数にのぼるという。だが、ウクライナはその攻撃を耐えきった。
プロキップはこう述べている:「昨年10月にはウクライナは電力輸出を停止せざるを得ませんでした。国内消費者も節電を余儀なくされ、完全な停電も頻発しました。あらゆるエネルギー網が被害を受けましたが、最大の損害を被ったのは電力網でした」
春が到来するとロシア軍は戦略を変更したためエネルギー網への攻撃は一段落したが、ふたたび冬が近づいてくるにつれ、同様の攻撃が再び始まると懸念されている。ウクライナ軍が防空網を強化したのもそのためだ。
だが、AP通信の取材に答えた匿名のウクライナ高官が強調するように、サイドワインダーを改造して作った防空システムは一時しのぎにすぎず、この問題を長期的に解決するものではない。とはいえ、短期的には有効な対策であることもたしかだ。
今回のサイドワインダーを用いた防空システム構築は、同盟国からの支援を最大限に活用するというウクライナの姿勢を象徴するといえるだろう。
『ウクライナ・プラウダ』紙によると、サイドワインダーが初めてウクライナに供与されたのは夏に行われたアメリカからの支援で、赤外線式の追尾システムを備えたタイプだったという。ミサイルがどのような対象を目標とするかについては、詳細は公表されていない。
旧式兵器の活用はサイドワインダーに限ったことではないらしい。先述の匿名の高官がAP通信に対して「使われなくなった兵器を転用するという方向で合意が取れている」と語っているからだ。
そういった転用の例として、AP通信はアメリカとウクライナが共同でソ連時代の防空システム「Buk(ブーク)」を改造して艦対空ミサイルRIM-7「シースパロー」を発射できるようにしたものを挙げている。シースパローはアメリカが大量に保有しているミサイルだ。
オンラインニュースサイト「The Drive」によると、シースパローは1967年から米海軍に配備されていたという。航空機や巡航ミサイルを迎撃可能なほか、地上目標に対しても利用できる。
写真:Wiki Commons by Ensign Kristin Dahlgren
米国防総省ではこれら2つの改造プロジェクトを「フランケンSAM」と呼んでいる。アメリカの議会が機能不全に陥りつつある現在、こういった転用兵器はウクライナの「命の恩人」とも言える存在になったとAP通信は伝えている。