ウクライナ支援に透けて見える日本の懸念:中露の軍事連携
日本政府の林外務大臣は、ウクライナの危機について語るスピーチのなかで、ロシアと中国の軍事的な協力関係がアジア地域で堅固になりつつある状況を指摘し、懸念を表明した。
ヨーロッパとインド太平洋諸国の閣僚会合がスウェーデンで行われ、日本から林芳正(はやし・よしまさ)外務大臣が参加した。林外務大臣は各国の閣僚に向けて、ロシアのウクライナ侵攻は「国際秩序の根幹を揺るがしています」と語りかけた。スピーチは英語で行われたが、その英文と和文仮訳は外務省のホームページで読むことができる(本記事では、林外相のスピーチはその訳文から引用)。
林外相のスピーチは続く:「世界のどこにあっても力による一方的な現状変更の試みは受け入れられず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に対する挑戦は(中略)国際社会が対応しなければならない共通の課題です」
「このような課題に連携して取り組まなければ、同様な挑戦が他の地域でも発生しかねず、我々の平和と繁栄を支えてきた既存の秩序が根底から覆されかねません」
ロシアとウクライナの対立が顕在化すると、日本政府はウクライナ側を支援するようになった。だが当初その支援は、ウクライナを併合しようとするロシアの野望に毅然と立ちはだかるといった種類のものでは、必ずしもなかった。
2014年、ロシアによるクリミア併合に際し、日本政府は「おおむね形の上での制裁(largely symbolic sanctions)」を課すにとどまった。そう分析するのは、テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)政治学国際関係学科のジェームズ・ブラウン教授である。彼はカーネギー国際平和基金のウェブサイトに寄稿し、日露関係を論じている。
2022年になると、日本政府の対露姿勢に大きな変化が認められる。「2022年のウクライナ侵攻に際し、日本政府はアメリカ合衆国やEUの対応にぴったりと追随した」と、ジェームズ・ブラウンは分析を続ける。日本政府は数百にのぼるロシア法人・個人に制裁を課し、ロシアからの石油・石炭の段階的な輸入制限措置に踏みきったという。ウクライナには監視ドローンを含む軍事器具が供与され、ゆくゆくは外国への武器輸出も解禁されるのではとブラウンは見ている。
日本政府の発表では、日本からウクライナへの支援総額は71億ドルにのぼる。そのなかにはヘルメットやドローンといった物資から、地雷探知機やその操作実習なども含まれている。だがこの支援は、まじりけのない利他的行為というわけではない。
ジェームズ・ブラウンの指摘によると、ウクライナ侵攻後の国際情勢における日本の対露政策には、中国というファクターが大きく関わっている。
「日本政府の高官たちは、この戦争から中国が引き出しうる帰結について案じており、そこで先手を打って中国政府に警告を発そうとしているのだ。すなわち、東アジアの現状(ステイタス・クオ)をむりやり変えようとするような試みは何であれ、(ウクライナにおけるロシアのように)烈しい抵抗をもって迎えられることになる、という警告である」とブラウンは分析する。ところで、林外務大臣もスピーチでまさにこの点に触れている。
スウェーデンのスピーチで、林外務大臣は中国政府を告発した。「東・南シナ海において、中国は力による一方的な現状変更の試みを継続・強化しています。台湾周辺での軍事活動も活発化させています」
「また、中露は、日本周辺での共同飛行、共同航行などの、軍事連携を強化しています」。この点、林外務大臣の見立ては誤っていない。
4月、中国の国防部トップの李尚福(り・しょうふく)将軍は、ロシア国防大臣のセルゲイ・ショイグとモスクワで会談をおこない、去る3月にモスクワでおこなわれた習近平(シー・ジンピン)国家主席とプーチン大統領の首脳会議で合意された事項をどう実行に移すべきか、その最善の方策を話し合った。
AP通信によると、李国防相はショイグ国防大臣との会見の冒頭で次のように述べた。「中国とロシアの軍隊は、両国の国家元首が達した合意を実行に移します。軍事協力を拡大させ、軍事的・技術的にさらに深く連携し、武器貿易をさかんに行うつもりです。それらの協力関係をわれわれは新しい段階へ引き上げます」
中国はスウェーデンでの会談に招かれなかったとAP通信は報じている。インド太平洋諸国の対話は、中国の代表を抜きにして果たして実のあるものになるのかという当然の質問に対し、ジョセップ・ボレル欧州連合(EU)外務・安全保証政策上級代表は具体的な回答を避けた。
「インド太平洋について、われわれは中国抜きでも申し分なく話し合うことができます。といっても、われわれが中国を顧みないということではありません。ということで、よろしいでしょうか?」とジョセップ・ボレルは返答したのだ。