世界銀行の試算:ウクライナの戦後復興費用は4,860億ドル
終わりの見えないウクライナでの戦争について、世界銀行は戦後復興を見据えて費用の試算を行っている。
今年の2月15日、世界銀行はウクライナの戦後復興費用について最新の推計を発表。同銀行は2023年3月にも同様の発表を行っているが、今回の見積もりはその時の数字を数百億ドル上回ることとなった。
世界銀行が公表した最新版の「被害・ニーズ調査(RDNA3)」によれば、ウクライナの戦後復興にかかる費用は10年間で推定4,860億ドル。ちなみに、2023年3月時点の推計は4,110億ドルだった。
この推計には短期的な復興にかかる費用に加え、「低炭素社会の実現や気候変動への対応など、以前よりも現代的な再建」を行うための中期的な復興費用が含まれている。
今回の推計は2022年2月から2023年12月にかけて収集されたデータに基づき算出されたもので、ウクライナの国内総生産(GDP)をおよそ2.8%も上回っている。
ウクライナ経済はロシアとの戦争で甚大な影響を受けている。実際、ウクライナのGDPは2022年に前年比で29.1%低下してしまった。しかし、2023年には4.8%増加し、回復のきざしを見せている。
とはいえ、世界銀行の被害・ニーズ調査では、「ロシア連邦が2022年2月24日に侵攻を開始して以来、ウクライナでは民間人の犠牲や苦労が絶えず、インフラや生産設備の破壊、経済の混乱が続いている」とされている。
今回の調査は世界銀行のほか欧州委員会とウクライナ政府が参加して行われたもので、ウクライナが直面するさまざまな課題や、戦争による直接的な損害を含む被害の実態が考慮されることとなった。
戦争によってウクライナが被った直接的損害は過去2年間で1,520億ドルに上る。住宅や交通機関、商業だけでなく、工業や農業、エネルギー分野でも甚大な被害が出ているためだ。
被害がとくに大きかったのはドネツク州、ハルキウ州、ルハンシク州、ザポリージャ州、へルソン州、キーウ州など、激しい戦闘が行われている地域だ。しかし、経済的損失という観点から見れば、戦争の影響はウクライナ全土に及んでいる。
今回の調査によれば、「経済の流れや生産体制が乱れたことに加え、がれきの除去をはじめとする追加の負担がのしかかるため、経済的損失の総額は4,990億ドルを突破するものと見積もられる」という。
ウクライナ当局は2024年の復興活動にかかる費用に対し、復興資金が95億ドル不足していると発表。各省庁は優先的に取り組むべきプロジェクトを選定し、150億ドルを投入するという。
『キーウ・インディペンデント』紙によれば、欧州連合はウクライナの復興や国家機能の回復を支援するため500億ドル規模の投資を承認したというが、それでも「復興のニーズを賄うための資金調達はウクライナ当局および同盟国にとって困難だ」と見られている。
一方、米国政府が計画する600億ドルの安全保障支援には100億ドルにおよぶ非軍事的な援助も含まれているが、この法案が米国議会を通過する見通しは立っておらず、ウクライナとしては当てにできない状況となっている。
また、ロシアが海外に保有する資産3,000億ドルの一部をウクライナの復興にあてるという案も持ち上がっており、ウクライナ政府はこれを推し進めたい構えだ。
ウクライナのデニス・シュミハリ首相は今回の調査を受け、「復興に必要となる費用はこの1年間で増加し続けているとわかるでしょう。ウクライナ復興の主な資金源は、西側諸国で凍結されているロシア資産の没収によって賄われるべきです」とコメント。
シュミハリ首相はさらに、「このプロセスは今年中に開始しなくてはなりません。同時に、ウクライナ政府は民間の投資を誘致するための準備に取り組んでいます。これによって、復興プロセスが加速し、EU加盟に向けた変革が進むはずです」と続けた。