ウクライナ南部戦線で苦戦を強いられるロシア軍:残された兵力を再配置
ロシア軍は、残りわずかな予備兵力をザポリージャ州に回している。同地域で勢いを増しつつあるウクライナ軍に防衛ラインを突破させないためである。
『フォーブス』誌の報道によると、防衛ラインの増援部隊はロシアが誇る第76親衛空挺師団からやってくるという。この第76師団はロシアが温存している優秀な部隊のひとつである。
米国のシンクタンク「外交政策研究所(FPRI)」のアナリストであるロブ・リー(Rob Lee)は「X」(旧Twitter)で、「第76師団はおそらくロシア最高の師団である」とコメントしている。
同誌によると、第76師団は今年はじめ、クレミンナ(ウクライナ東部ルハンシク州、セヴェロドネツィク地区の都市)周辺で繰り広げられた一連の戦闘に投入されていたとのこと。この地域では今もロシア軍による激しい攻撃が続いている。
ロシアはその後、第76師団の再配置を行い、部隊の一部を残してクレミンナから移動させたと見られている。それはウクライナ軍が前線の一部で待望の反転攻勢に出たタイミングだった。
ここ最近は、ウクライナ南部でウクライナ軍がロシア軍の防衛ラインを圧迫。ドネツィク州ウロジャイネおよびザポリージャ州ロボティネという2つの集落を奪還している。
同誌によると、二つの集落は100キロメートルほど離れている。この大規模な南進により、ウクライナ軍は南部解放という大きな目標にも手が届きそうになっている。
「ロボディネの占領は、二ヶ月あまり前に反転攻勢が始まって以来、最も意義のある戦果である」と、ニュースサイト「ビジネスインサイダー」のアリア・ショアイブ(Alia Shoaib)は書いている。
『フォーブス』誌の記者デイヴィッド・アックスは次のように書いている。「ウクライナはメリトポリとマリウポリを占領軍から解放しようとしている」。だが、ロシア軍は当然そのプランを阻止しようとしている。
「ロシア軍は、それらの都市の支配権を維持し、占領下にあるクリミア半島への陸路補給ルートを確保しようとしている」と、デイヴィッド・アックスは解説する。
デイヴィッド・アックスはさらにこう述べている。すなわち、ウクライナ南部をめぐるこの戦闘の勝敗は、残りわずかな予備兵力を、どちらの側がよりよく活用できるかにかかっているかもしれない。
ウクライナ軍は、第82空中強襲旅団を南部戦線に投入し、ザポリージャ州ロボティネ奪還を実現させたのだった。そして今、ロシアは第76親衛空挺師団を投入し、ウクライナ軍の勢いを削ごうとしている。
前出のアリア・ショアイブ記者によれば、第76師団は落下傘部隊の精鋭だという。
米シンクタンク「戦争研究所」は次のように分析している。もし第76師団の再配置が事実だとすれば、それはロシア軍がウクライナの攻勢に対応しうる規模の予備兵力を持っていないがゆえの対応であるかもしれない。したがって今後、他の部隊の再配置を行うことも考えられる。
ウクライナ国防省のキリーロ・ブダノフ情報総局長は、8月26日、ラジオ・フリー・ヨーロッパのインタビューに応じた。ブダノフ氏が言うには、ロシアは人的資源を除いては、長期戦を戦うためのリソースに事欠いているという。
ウクライナの国営メディア「UKRINFORM」がこのインタビューの内容を伝えており、ブダノフ氏は次のように語っているという。「プーチン大統領にはリソースがありません。人的リソースは別として、それ以外のいかなるリソースも足りていません。経済もそうですし、軍需産業もそう。予備兵力もすでに疲弊しています」
「人的リソースはあります。(……)ロシアが潤沢に抱えているのはそれだけなのです」
ロシア軍にどれほどの人的リソースが残されているか、それがウクライナ軍による南進の勢いを削ぐのに十分なのかどうかは今のところ不透明だ。だが、以上の情報を総合すると、南部戦線のロシア軍はこれからも苦戦を強いられそうである。