終わりの見えないウクライナ侵攻にうんざりし始めたロシアのエリートたち
経済ニュースサイト「ブルームバーグ」の報道によれば、ロシア国内のエリートたちの間で、ウクライナ侵攻に始まった戦闘でロシアが勝利を収めるのは困難であるという考えが広まっているという。
彼らが望む最善のシナリオは、ロシア政府が占領地の一部を維持したまま停戦交渉にもちこみ、形だけでも勝利宣言を行うことだ。
ブルームバーグは事情に詳しい関係者7人に匿名で取材を行ったが、そのうちの4人が語ったところによれば、プーチン大統領の指導力に対する国民の信頼は揺らいでいるとのこと。
元ロシア政府顧問のキリル・ロゴフ氏はブルームバーグに対し、「エリートたちは身動きが取れなくなってしまっています。無意味な戦争のとばっちりを受けるのを恐れているのです」と語った。
写真:Telegram @KiRogov
ロゴフ氏はプーチン政権がウクライナ侵攻に乗り出したことを受けてロシアを出国、ロシア情勢を分析するシンクタンク「Re:Russia」をウィーンで旗揚げした。
同氏は「プーチン政権は今回の戦争に勝てないかもしれないという見解が、ロシア人エリートたちの間で驚くほど広く浸透しています」と述べ、悲観的な見方がロシア社会に蔓延していることを示唆。
今年4月には、ロシアの著名な音楽プロデューサー、ヨシフ・プリゴジンと実業家で元上院議員でもあるファルハド・アフメドフの通話がリークされ、プーチン政権に対するエリートたちの不満が浮彫になった。
写真:Wikicommons
カーネギー国際平和基金によれば、2人は通話の中でロシアの政権指導部について「互いに足を引っ張りあって(……)自国を引きずり込み(……)未来をダメにする愚かなゴキブリども」と辛辣に批判したという。
この通話についてカーネギー国際平和基金のアレクサンドラ・プロコペンコ研究員は、ロシアのエリートたちと議論を交わす中で同じような批判を耳にしたとX(旧Twitter)に投稿している。
プロコペンコ研究員いわく:「2人の通話の内容は、私自身が(ロシアの)エリートたちと議論を交わす中で耳にしたものとほとんど同じです。プーチン大統領はロシア全体をめちゃくちゃにしてしまったんです。誰もが似たような表現、同じように悲痛な調子で失意と絶望をこぼします」
しかも、プリゴジンとアフメドフの通話がリークされたときと比べて事態はいっそう困難なものとなっており、ロシア国内の権力闘争やウクライナの反撃も相まってプーチン大統領は難しい舵取りを迫られている。
ブルームバーグの指摘によれば、ウクライナ軍の反転攻勢によって戦線が膠着する中、ロシア内部では国防省とタカ派愛国者たちの間で亀裂が深まり、表面化しているようだ。
また、同サイトが伝えたところによれば、クレムリンと密接なパイプを持つ政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏も、「大きな過ちをあまりに多く犯し続けている」と述べたそうだ。
マルコフ氏はさらに、「以前はロシアがウクライナの大部分を支配することになるだろうという期待感があったが、現実にはそうならなかった」と続けている。
一方、ロシア国内には、いかなる犠牲を払ってでも勝利を手にすべきだと主張するタカ派もいる。たとえば、プーチン大統領の信奉者として知られるドミトリー・メドヴェージェフ元大統領は5月末のベトナム滞在中に、ウクライナ侵攻は数十年にわたって長期化する可能性があると述べている。
ロイター通信によれば、メドヴェージェフ元大統領は「この紛争はおそらく数十年単位で長期化するだろう。あのような政権が(ウクライナに)存在する限り、3年間停戦しては2年間戦闘を行うといった状況が繰り返されるはずだ」とコメント。
しかも、このような過激な主張を行っているのはメドヴェージェフ元大統領だけではない。ブルームバーグによれば、プーチン派で非常に熱心なロシア正教徒として知られる実業家のコンスタンティン・マロフィエフも、ロシアはいずれ戦場で有利に立つことができるのだから停戦合意に署名すべきではないと考えているようだ。
マロフィエフは「半年以内には弾薬と砲弾の生産量で優位に立ち、攻勢に出る準備が整うはずだ」とし、ウクライナで戦う志願兵のために私費を投じている。
ロシアにおけるエリート層の立場はさまざまであり、長期化する戦争にうんざりする人々が増えている可能性は低くない。しかし、プーチン派は強固に権力を掌握しており、エリートたちの不満によって現状が変わるとは考え難い。