ウクライナがロシア産天然ガスを輸送停止に:欧州への影響は?
1月1日、ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSへの投稿を通じ、ウクライナが天然ガスの輸送を停止したころで、ロシアは大きな打撃を受けていると指摘した。
ウクライナは同国内のパイプラインを通じてロシア産天然ガスを欧州に輸出していたが、昨年12月にこの契約は更新されないことを発表していた。実際、ウクライナ経由の天然ガス輸送は今年1月1日に停止されることとなった。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、ゼレンスキー大統領は昨年12月初旬に、ウクライナ当局がロシア産天然ガスの輸送を停止する決定を下したと発表。「ロシアが私たちの血でもって、何十億ドルも稼ぐのは許せない」と発言したとのこと。
ロシア産天然ガスの輸送停止は、ウクライナおよび同盟国がエネルギー分野におけるロシア依存から脱却しようと試みていることを示す動きでもある。
『キーウ・インディペンデント』紙によれば、ゼレンスキー大統領は「25年あまり前、プーチン氏がロシアで権力を掌握したとき、ウクライナを経由してヨーロッパに輸送される天然ガスの量は年間1,300億立方メートルを超えていました」と発言したそうだ。
同大統領いわく:「そしていま、ロシア産天然ガスの輸送量はゼロになりました。これはロシアにとって大打撃です。ロシアはエネルギーを武器として利用し、各国に脅しをかけた結果、皮肉にももっとも地理的にアクセスしやすい魅力的な市場を失ってしまったのです」
ただし、近年はウクライナ経由の天然ガス輸送量が以前と比べて低下していたため、ロシアのガス事業全体に与える影響はそこまで大きくない可能性もある。
ロイター通信によれば、今回打ち切られた契約に基づいて2023年にウクライナを経由した天然ガスの輸送量はおよそ150億立方メートルに留まっていたとのこと。これは、2018年から2019年にかけて欧州市場に輸送されたロシア産天然ガスの総量の8%に過ぎないそうだ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、ロシア産天然ガスはかつて、ヨーロッパにおけるガス消費量の40%を占めていたという。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻の勃発を受けて、EU諸国は対露制裁を発動。ロシア産天然ガスの輸入用も大幅に減っていた。
旧ソ連時代に建設されたウレンゴイ=ポマリ=ウジュホロド・パイプラインはシベリア産の天然ガスを、現在ウクライナ軍の支配下にあるクルスク州のスジャを経由して、ヨーロッパへと輸送する役割を果たしていた。
ロイター通信はウクライナのヘルマン・ガルシェンコ・エネルギー相の言葉として、「我が国はロシア産天然ガスの輸送を停止しました。これは歴史的な事件です。ロシアは市場を失い、経済的な損害を被るはずです」というコメントを伝えた。
ウクライナ経由の天然ガス輸送が停止されたことは、同国にとって有利に働く可能性がある一方で、新たな懸念もある。ロシアがウクライナ国内のパイプラインを標的にし始めることが考えられるためだ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、ロシア軍はこれまで、ウクライナ国内の大規模ガスパイプライン網に対する攻撃を控えてきたという。しかし、同国のパイプラインがロシアにとって用済みとなった今、攻撃のターゲットになる可能性があるわけだ。
さらに、ヨーロッパにはロシアに友好的で、同国産天然ガスに依存しているスロバキアのような国もある。ニュースサイト「ブルームバーグ」によれば、こういった国々はウクライナに対する報復措置に出る可能性があるとのこと。
ロシア産天然ガスの輸送停止によって、ウクライナがロシアおよび同国と友好的なヨーロッパ諸国からどのような報復措置を受けることになるのか、現時点では不明だ。しかし、ロシアが経済的な打撃を受けることは間違いないだろう。
ロイター通信によれば、ロシア産天然ガスの輸送停止によって、ウクライナはこれまで受け取っていた年間8億ドルの輸送手数料を失うという。一方、ロシアにとっては、年間50億ドルの売り上げが失われることとなる。ただし、ロシアが別のパイプライン網を利用して天然ガスを輸送する可能性は依然として残されている。