ウクライナ情報総局長がロシア工作員の暗殺を認める:新たな情報戦の可能性
五月初旬にウクライナ国防総省情報総局長のキリーロ・ブダノフがインタビューに答えた。そこで彼はこの紛争の後、ロシア国内に非常に広範な非武装地帯を設定することを要求したほか、ウクライナによる親露派情報工作員の暗殺作戦についても答えた。
『ニューズウィーク』誌によると、ブダノフのインタビューはリズニ・リュディのユーチューブチャンネルで行われた。そこでブダノフは今回のロシアとの紛争終結後の展望を語ったが、そのビジョンは少々高望みとも思えるものだった。
写真:screenshot/ YouTube @DIFFERENT_PEOPLE
ブダノフは、たとえロシア国民がプーチン政権を打倒したとしても、将来の紛争リスクを防ぐためには100km近い非武装地帯が必要だという認識を示した。『タイムズ』紙が報じた。
ブダノフは『タイムズ』紙にこう語っている:「これこそが我々の目指すゴールとして設定されるべきです。もし数年間にわたってほんとうに攻撃も報復もするつもりがないなら、この要求に何の問題もないはずです」
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ブダノフはこの非武装地帯がどのように設定されるのかなどの詳細には触れなかった。ただ、このような要求をロシアが認めて停戦に至る可能性はかなり低いだろう。
もちろん、仮にロシアが無条件降伏するような事態になったとすれば、非武装地帯の要求も通る可能性はある。だが無条件降伏に至る可能性はほとんどないうえ、『タイムズ』紙が指摘したように、ブダノフのコメントは「戦争のエスカレーションへの不安をかきたてる」恐れすらある。
ブダノフは非武装地帯の要求以外にも興味深い話をしている。インタビューによると、ブダノフの指揮のもと、ウクライナはロシアの情報工作員を暗殺する作戦を実行してきたのだという。これまで公式には認められてこなかった情報だ。
ウクライナ保安庁はロシアの情報工作員を殺害したことがあるのか、という質問に対してブダノフはこう答えた:「すでに相当数の目標を設定し、成功してきています」
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また、ブダノフは続けてこうも語った:「メディアの高い関心のおかげで、作戦の結果がすでに広く知られているケースもあります」『タイムズ』紙が翻訳して伝えた。
具体的にどういった工作員が目標とされたのかについては多くは明かされず、この発言についてこれ以上コメントすることはないとも述べていた。だがなぜブダノフはロシアの情報工作員の暗殺を公言したのだろうか。
『スペクテイター』誌のマーク・ガレオッティは5月19日にブダノフのコメントについての論説記事を掲載、ブダノフの発言は「情報戦」の一環である可能性を指摘した。その記事の中では、以前プーチン政権に対するクーデター計画が進行中であるという発言があったことも指摘されている。
たしかに、ガレオッティの解釈に従えば、ウクライナの高官がベラルーシのルカシェンコ大統領と継続的に接触していたことを明かした理由も説明しやすい。ブダノフによると、ウクライナ側はルカシェンコ大統領に今回の紛争から距離を置くよう働きかけ、その試みは成功してきたというのだ。
ブダノフはユーチューブチャンネルでこう語った:「好き嫌いはあるでしょうが、ルカシェンコ大統領は頭の良い人物です。彼とてベラルーシに2月24日[ロシアによるウクライナ侵攻が始まった日]がやってくるのを見たくはないはずです」独立系ニュースサイトのメデューサが翻訳して伝えた。
ブダノフはさらにこう続けた:「ロシア政府は侵攻に際してルカシェンコ大統領に意見を求めることはありませんでした。これには彼にも思うところがあったでしょう。ベラルーシはもう長いあいだウクライナを攻撃していません」
ブダノフのコメントによると、ウクライナ最高議会の議員であるエフゲニー・シェフチェンコがルカシェンコ大統領との交渉役として選ばれ、ウクライナの参戦を防ぐ役を担ったのだという。これが本当なら、ウクライナによる働きかけはかなり効果的に働いているというべきだろう。
だが、この発言もまた心理的な情報戦の一環に過ぎず、ロシア政府とベラルーシとのあいだの信頼関係を損なうことが目的という可能性もある。いま起きているのは戦争であり、次にどこから攻撃が来るかわからないと思わせておけば敵の優位に立つことができるのだから。