ウクライナのザルジニー軍総司令官が戦線の膠着に言及
ウクライナのヴァレリー・ザルジニー総司令官は『エコノミスト』誌によるインタビューの中で、戦況に関する自身の見解を説明、戦線が膠着状態に陥っていることを認めた。
ウクライナ軍による反転攻勢の現状について語ったザルジニー総司令官はさらに、ロシア軍に大きな人的被害を強いれば戦争は終結に向かうと考えていたが、その見込みは間違っていたと打ち明けたのだ。
ザルジニー総司令官いわく:「私の見込み違いでした。ロシアは少なく見積もって15万人もの死者を出しています。普通の国であれば、これだけ犠牲者が増えたら戦争をやめるものなのですが」ところが、人的損害の拡大がロシア当局の戦意を削ぐことはなかった。
ロシア当局は自軍の死傷者数について公式統計を発表していないため、正確な数字を推測するのは容易ではない。一定の信頼性があるデータとしては、今年初めにリークされた米国防総省の機密文書を参考にすることができるだろう。
『インデペンデント』紙の報道によれば、米国の空軍州兵ジャック・テシェイラがリークした国防総省の機密文書によって、ロシア軍の死傷者数は18万9,500人から22万3,000人と見積もられていることが明らかになったのだ。
この文書はまた、ウクライナ侵攻におけるロシア軍の死者数について3万5,500人から4万3,000人としている。しかし、この情報が流出してから6ヵ月あまり経った今も、戦争が終結に向かう兆しはない。
ザルジニー総司令官に対するインタビューで明かされたのは、今回の戦争がまるで第一次世界大戦のような様相を呈していることだ。しかし、一体なぜそんなことになっているのだろうか?
ザルジニー総司令官によれば、それは軍事技術が進歩したためだ。いわく:「第一次世界大戦のころと同様、テクノロジーが一定のレベルに達したことで膠着状態に陥ってしまったのです。おそらく、現状を打破するためのシンプルかつ目覚ましい方法はないでしょう」
同総司令官はさらに、「これは単純な話です。我々は敵の行動をすべて見張っていますが、彼らもまた我々を見張っているのです。この行き詰まりを打開するにはなにか新たなものが必要です」と付け加えた。
同総司令官は、ウクライナ軍が前線における膠着状態を打破するには新技術が必要だと訴えている。火薬の発明に匹敵するような革新的なテクノロジーが不可欠だというのだ。
同司令官は、ウクライナ軍による膠着状態の打開をテーマとした記事の中で、ドローン技術や電子戦装置、対砲兵兵器に関する技術革新が欠かせないと指摘している。
同記事の要点をまとめれば、ウクライナ軍は「制空権を獲得し、地雷原を深く突破する必要があるほか、より効率的に対砲兵戦や電子戦を展開し、必要な物資を貯蓄」しなくてはならないとのこと。
そして、「軍事的に互角の情勢を打ち破るには、陣取り合戦から機動戦になってしまうのを防ぐためにも、画期的かつ大々的なアプローチを模索する必要があります」と結論づけている。
ザルジニー総司令官はさらに、西側諸国による支援について不十分だと不満を表明。欧米が強力な兵器システムの提供に消極的だったため、ロシア軍はハルキウ州で敗走した後に体勢を整えることができてしまったのだとした。
『エコノミスト』誌は、ウクライナ軍が西側諸国の長距離ミサイルシステムや戦車を早いうちに手にすることができていれば、状況は違っていたかもしれないと指摘。ザルジニー総司令官も同盟国への批判は避けつつ、そういった武器は昨年ならもっと役に立っていたかもしれないと断言している。
同総司令官はまた、来年初めに引き渡しが予定されているF-16戦闘機や長距離ミサイルについて、膠着状態の前線ではそこまで役に立たないかもしれないと懸念を表明。
ザルジニー総司令官いわく:「旧世代の兵器や時代遅れの戦法でこの戦争に勝つことはできないと理解することが大切です。そういった要素は(反転攻勢に)遅れをもたらし、敗戦につながってしまうのです」
そこで必要となるのは新技術開発だが、同総司令官によれば、残念ながら革新的な変化が訪れる兆しはないという。
ザルジニー総司令官の見解によれば、ロシア軍が量的優位を戦場で活かせるようになるとウクライナ軍は太刀打ちできなくなってしまうおそれがあるため、その前に戦争を終わらせるのが肝心なのだ。
同総司令官は「消耗戦や塹壕戦がはらむ最大のリスクは、戦闘の長期によって国家としてのウクライナが疲弊してしまうおそれがあるということです」としているが、武器を置くという選択肢はウクライナに残されていない。
ザルジニー総司令官はさらに、こう指摘する:「我々は解決策を見つけ出さなくてはなりません。かつての火薬のような新兵器を生み出し、素早く使いこなして迅速な勝利を目指す必要があるのです。というのも、遅かれ早かれ、戦うための人員が尽きてしまうときが来るのですから」