戦闘を放棄するロシア兵たち。一方、プーチン大統領は部分的動員を発動
兵士が戦場で戦闘を拒否するのは容易なことではない。母国に対する裏切りとして、厳しく処断される可能性もあるのだ。ましてやロシアという国であればなおさらだろう。
ウクライナに送られたロシア兵たちの一部には、この戦争の大義に疑問を抱いたり残虐行為に加わりたくないと考えたりして、戦闘を放棄する者も出ているという。
戦闘放棄を決断したロシア兵たちの証言は、ウクライナ侵攻の現実を雄弁に物語っている。
CNN放送が取材したロシア軍将校(名前は明かされていない)の証言によれば、彼の所属する大隊はクリミアに向かうはずだったが、いつの間にかウクライナ領内に送り込まれていたという。彼自身も大隊の同僚たちも開戦を知らされていなかったにもかかわらず、戦場で武器を取らされることになってしまったのだ。
CNNに証言を行った将校の場合、ウクライナの「非ナチ化」作戦に加わることは知らされていなかったという。
それどころか、ロシア兵たちも自分たちがウクライナに派遣された理由をよくわかっていないようだ。前述の将校はCNN放送に対し「自分たちは『ウクライナのネオナチ』に立ち向かうという大義を叩き込まれて戦場に送られたわけではない。大半の兵士たちは戦争の目的も、自分たちが何しにウクライナにやって来たのかもわかっていなかった」と証言した。
このロシア軍将校は、母国のウクライナ侵攻を不名誉だと感じていると報道機関に述べた。
また、ウクライナ側の激しい反撃に晒されたことで「最初の1週間ほどはショックだった。何も考えることができなかった」という。
このロシア軍将校は、ウクライナの人々がロシア軍に対して激しい拒否反応を示すのを目の当たりにして戦闘放棄を決断したとCNN放送に語った。
軍事専門家によれば、兵士の戦闘放棄は合法だという。しかし、前述の将校の場合、戦闘を放棄すれば訴追するという警告を押し切っての決断だった。幸い彼は戦場を離脱することができたが、必ずしもうまくゆくとは限らないのだ。
ロシア・ウクライナ両陣営ともに激しいプロパガンダ合戦を展開しており、戦場の実態ははっきりしない。しかし、かなりの数のロシア兵が戦闘を拒否しているというのは事実のようだ。匿名でロイター通信に証言したロシア兵は「これは自分たちの戦争ではない」と述べたという。
ロイター通信に証言した兵士によれば、ロシア軍は自軍の兵士に対する約束すら守っていないようだ。「(出撃前に)整列させられ、全員に日当が出るほか、戦闘に対する特別手当や表彰もあると言われた」しかし、その約束は果たされなかったという。「私たち14人は武器を置くことにしました」彼はそう続けた。
ウクライナ当局の発表によれば、ロシア軍では階級(兵士、将校、通常部隊、エリート部隊)を問わず戦闘を放棄する者が相次いでおり、70%近い離脱者を出した部隊もあるという。しかし、プロパガンダに過ぎない可能性もあり、どこまで事実に即した情報であるのか知るのは難しい。
「ロシア兵士の母の委員会連合」のヴァレンティナ・メルニコヴァによると、正確な数ははっきりしないものの、戦闘放棄を表明しているロシア兵は多数に及んでいるという。
今のところ、ロシア兵は契約の内容に従って戦闘を放棄する権利を保持している。というのも、ロシア政府はウクライナに対し宣戦布告を行っていないため、強制的な徴兵はできないのだ。したがって、軍規に則って戦闘を放棄する限り、脱走には当たらないのである。
しかし、ロシア兵士の母の委員会連合によれば、戦闘放棄は容易ではないという。上官に申請を行わなくてはならないが、却下されてしまうこともあるからだ。すべては上官の判断次第なのだ。
戦闘を放棄したロシア兵たちの証言は、当局の発表とは違って悲惨だ。CNN放送が取材したロシア兵は「私たちは薄汚れて疲れ切っていました。周囲では人々が死にかけているのです。私は自分がこんな災難の一部だとは思いたくありませんでしたが、事実そうだったのです」
開戦直後こそ悲惨な状態に陥ったロシア軍だったが、徐々に持ち直し、占領地の拡大に成功しつつある。しかし、統制の欠如や物資不足に悩まされ、膨大な死傷者を出しているのもまた、事実である、
ドイチェ・ヴェレ放送は、ロシア軍はウクライナ侵攻ですでに2万9,200人の犠牲者を出したと推定している。また、NATOはロシア軍の戦死者数を7,000から1万5,000人と推計。一方、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、開戦後7ヵ月の時点で公式統計を更新。それによれば、6,000人あまりのロシア兵が命を落としたとされている。
どこに派遣されるのか知らなかったと証言する兵士は少なくない。開戦直後には、捕虜となったロシア兵が母と電話することを許可され、ロシア軍が民間人を標的にしていると話す様子も公開された。ただし、ウクライナ側による、このような映像の公開はジュネーブ条約違反である。捕虜を人前に晒したり、プロパガンダに利用したりすることは禁止されているためだ。
また、世界中に拡散された別の映像では、単なる軍事演習だと思い込まされていた兵士たちが「騙された」と感じて、帰国を希望する様子も公開された。
2022年9月21日、プーチン露大統領は予備役の市民を「部分的動員」すると発表。
部分的動員が発表されると、ロシアの男性たちは我先に国外脱出を図りはじめた。航空券の売り切れや極端な値上がりが相次ぎ、フィンランドとの国境では出国を待つ人々の長い列も見られた。
また、ロシア国内では老若男女が街角に繰り出し、部分的動員に対する反対デモを挙行。2,000人以上のデモ参加者が逮捕されたほか、健康上の理由で徴兵を免除されるはずの人や訓練経験のない人まで招集されているという訴えが多く聞かれるようになっている。
ショイグ国防相は、ロシア軍の部分的動員は2022年10月28日に完了したと宣言。今回動員されたのは計30万人で、21万8,000人が訓練中、残りの8万2,000人はすでに戦闘地域に派遣されたとしている。