物価上昇で絶滅?:ニューヨーク名物の「1ドルピザ」
1ドルピザは、20年以上も前からニューヨークの人々に親しまれている。物価の高い大都市で、あらゆる社会階層や社会背景の人々が、安く手軽に食事をするための強力な味方だった。しかし今、その歴史に幕が下ろされようとしている。
「ニューヨーク・タイムズ」紙は、1ドルピザに終止符を打った主犯として、新型コロナウイルスを挙げている。
何十年も前から食品デリバリーの主役であるピザショップは、新型コロナウイルスによる自粛期間中も、ほかのカフェやレストランに比してかなり活発な営業活動を続けてきた。
一方、1ドルピザは観光客やお腹を空かした地元民でごった返すような通りをターゲットとして、低価格商品ながらコンスタントな売上を上げていた。しかし、パンデミックによりニューヨークの通りから人の姿は消え、収入が途絶えてしまったのだ。
もはやピザ1枚が1ドルでは成り立たなくなった理由として、エスカレートするインフレと、食品価格の上昇が指摘されている。
「ガーディアン」紙を始めとするニュースメディアは、すでに2021年末の時点で、絶滅鳥であるドードーのようにニューヨーク名物の1ドルピザも消える運命にあると予測していた。
「ニューヨーク・タイムズ」紙は2021年12月、現在のピザショップは商品を値上げするか店をたたむかという二者択一を迫られており、1ドルを維持している店はごくわずかだとしている。
2021年12月、「ガーディアン」紙は「99セント・フレッシュ・ピザ」のオーナー、アブドゥル・ムハンマドにインタビューを行った。このピザレストランチェーンでは、2001年の創立時と同じ値段をこれまで維持しているのだ。
アブドゥル・ムハンマドは、「当社の顧客の多くは家賃の支払いも滞るような失業者です。今よりも高い買い物をする余裕はないということを、考えない訳にはいきません」としている。
画像:DiegoMarín/ Unsplash
今年2月にロシアが隣国を侵攻して始まったウクライナ戦争は、世界経済および世界中の食料価格に大きな影響を及ぼしている。
2020年の新型コロナウイルス感染症の影響に加え、グローバルサプライチェーンの存在が火に油を注いだ形だ。
こうした影響を受けているのはピザショップだけではない。「ビジネス・インサイダー」紙によれば、ディスカウントチェーン店「ダラー・ツリー」も同じような理由で商品価格を1ドルから1.25ドルに上げざるを得なくなった。
ピザがニューヨーク名物になった歴史はきわめて長く、その起源は1880年代にまで遡る。当時、多くのイタリア移民が米国に渡ってきたことで最初のピザショップがオープンしたとされている。
画像:1961年、ピザまるごと1枚を15セントで販売するニューヨークのピザショップ
「ガーディアン」紙によれば、現在ニューヨーク市には約1,700軒のピザショップが存在する。
画像:Jessica Pamp、Unsplash
しかし、家賃の高騰やインフレ、サプライチェーンの問題、デリバリーサービスにつきものの不安定さなどが、こうした小規模なビジネスに負担を与えている。
「ニューヨーク・タイムズ」紙が指摘するように、経済危機が起こった2008年には、多くの人々が1ドルピザの世話になり、食べていくことができた。しかし現在、観光客はもちろん、貧困層の人々や失業者の味方であった貴重な食の選択肢のひとつが失われつつある。