インフルエンサーを活用してプロパガンダ:北朝鮮がたくらむネット工作とは?
ソーシャルメディア全盛の昨今、いわゆるインフルエンサーの影響力は絶大だ。彼らは大きな声を持ち、大衆の意見に形を与え、世界中の人びとに影響を及ぼすことができるのだ。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
通常、インフルエンサーはマーケティングと結びついて、企業の製品を宣伝したり、特定のライフスタイルを広めたりといった活動を行う。しかし場合によっては、もっと油断のならない目的のために利用されることもある。
写真:Olivia Natasha-YuMi Space DPRK daily/YouTube
『インサイダー』とCNNの報道によると、北朝鮮はソーシャルメディア・プラットフォームの潜在的能力に目をつけており、とりわけYouTubeを通じてグローバルな視聴者に働きかけ、世論を操作しようとしているらしい。
写真:Olivia Natasha-YuMi Space DPRK daily/YouTube
北朝鮮は、同国にルーツを持つインフルエンサーたちのネットワークづくりに注力し、北朝鮮の肯定的イメージを広めるコンテンツを作らせている。
インフルエンサーたちは北朝鮮のくらしを動画に撮ってシェアするが、その内容は、西側メディアが金正恩政権下の日常生活としてこれまで報道してきたものとはだいぶ趣を異にしている。投稿された動画のなかで、北朝鮮出身の若者たちは完璧なイギリス英語を話し、「ハリー・ポッター」の大ファンだとか、遊園地へ行ったことなどを話題にしている。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
このような北朝鮮発インフルエンサーの一団は、いわばデジタル・アンバサダーの役を果たしている。当局の意向に沿ったプロパガンダを効率的にまきちらし、北朝鮮の評判をよりソフトなほうへ誘導しているのだ。
このテーマに関してCNNは、北朝鮮系YouTuberの「YuMi(Olivia Natasha)」が、全世界のオーディエンスを相手にしていると論じている。YuMiのチャンネルは新しい動画を定期的にアップしており、登録者数は2万人を超えている。
写真:Olivia Natasha-YuMi Space DPRK daily/YouTube
YuMiの投稿動画は、しっかり練られた脚本のもと、北朝鮮の文化や伝統、毎日の暮らしが綴られており、当局のポジティヴなイメージがそれとなく補強される作りになっている。
写真:Olivia Natasha-YuMi Space DPRK daily/YouTube
彼女のねらいは、北朝鮮の親しみやすいイメージを提示することだろう。世界のユーザーにアプローチし、その好奇心をかき立て、ひいては同国のイメージをより良い方向へ変えるのが目的だ。
写真:Olivia Natasha-YuMi Space DPRK daily/YouTube
ところで、YuMiは平壌の「あたりまえの」生活を紹介しているはずだが、しかし動画を見ていると別のことに気がつく。彼女が訪ねる平壌のおしゃれスポットは、どこも奇妙にがらんとしており、背景のしかるべきエリアに「エキストラ」の人がぽつぽつと配置されているといった風情なのだ。
写真:Olivia Natasha-YuMi Space DPRK daily/YouTube
「Song A」は見たところ10歳か12歳くらいの少女である。YouTubeのチャンネル登録者数は3万人を超え、そのチャンネルにはおよそ15本の動画が投稿されているが、どれを見ても、平均的な西欧風の子どもの生活が撮影されているように見える。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
Song A、あるいはサリー・パークス(Sally Parks)は、視聴者に向かって完璧なイギリス英語で語りかける。ダンスのお稽古、『ハリー・ポッター』、ウォーターパーク、科学センター…… シェアされるのは、北朝鮮で彼女が過ごしている理想的な小学生ライフだ。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
Song Aの動画はYuMiのものと不気味なほど似通っており、違うのはただ、こちらはYuMiよりもさらに年下のオーディエンス向けになっている点である。YuMiの動画も台本を読み上げているような印象を受ける。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
ある動画のなかで彼女は、北朝鮮の子どもたちは学校でダンスレッスンを受けることができると話す。そのような手厚い教育により、子どもたちは「肉体的にも、精神的にも、道徳的にも」成長できるとコメントするのだが、例えばこの「肉体的・精神的・道徳的」という語のチョイスは、どうも11歳らしくない。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
Song Aは心血を傾けて説得につとめる。自分の暮らしはまったく特別なものではなく、北朝鮮の子どもたちの典型ですよ、と。しかしこれほど現実からかけ離れたこともないのだ。『インサイダー』によると、Song Aの一族は平壌に住むエリート中のエリートである。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
記事が詳しく論じるように、そのようなエリートの優雅な生活、享受している特権は、平均的な北朝鮮国民の想像をはるかに超えるものである。
韓国の新聞『世界日報』(セゲイルボ)によると、Song Aの母親は李乙雪(リ・ウルソル、1921-2015)の孫にあたる。李乙雪は「北朝鮮第一世代の戦争英雄」で、初代最高指導者の金日成(キム・イルソン)とともに戦った重要人物だ。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
「イギリスの北朝鮮大使館に勤務し、のちに亡命した人物が『世界日報』に語ったことによると、Song Aの父親は同じ大使館で働いており、Song Aはずっと小さな頃にロンドンにやってきた」。そのように『インサイダー』は伝えている。Song Aは幼い頃にロンドンで暮らし、イギリス英語を身につけたのだ。
写真:Sally Parks/Song A Channel/YouTube
『インサイダー』が暴露するように、北朝鮮系インフルエンサーたちは、さまざまなプロパガンダテクニックを用いて視聴者の考えを操ろうとしている。そのテクニックは例えば、綿密に演出された動画、コントロールされた語り、北朝鮮の良い側面が際立つように吟味された画像などである。
感情にうったえ、国民の誇りを称揚し、テクノロジーの分野における進歩を強調することによって、これらのインフルエンサーたちは北朝鮮当局への共感を人々の心に植え付け、好意的な印象を抱かせることを目標としている。
写真:Olivia Natasha-YuMi Space DPRK daily/YouTube
CNNと『インサイダー』が強調するように、インフルエンサーたちは北朝鮮当局からの積極的な支援と監督を受けている。当局の思惑は疑いようがない。人々がもつ北朝鮮のイメージを統一し、国の印象を損ないかねないメッセージの拡散を未然に防ごうとしているのだ。
それでもまだ疑問が残るかもしれない。インフルエンサーたちは本当に、当局公認プロパガンダの拡散のために利用されているのか? そのような懐疑的な人々に向けて、『インサイダー』は次の事実を指摘する。北朝鮮に住むすべての一般市民は、インターネットの接続や、画像や動画をオンラインに投稿することを禁じられているのだ。
北朝鮮当局によるインフルエンサーの戦略的な利用によって、倫理的な問題が持ち上がる。つまり、ソーシャルメディアを通じて国の印象を操作するプロパガンダを拡散することは、全てのインフルエンサーと彼らが発信するコンテンツの正しさ、その信頼性を根本から揺るがすことになりかねない。
YouTubeのスポークスパーソンは『インサイダー』からの問い合わせに電子メールで答えている。それによると、YouTube運営当局はYuMiとSong Aのアカウントについて調査したが、彼女たちは利用規約に違反しておらず、したがって運営側からできることは少ないという。