支配が29年間に及んだアサド政権が崩壊したシリアはどうなる?
2011年に中東で発生した民主化運動「アラブの春」以来、10年あまりにわたって内戦状態に陥っていたシリア。強権的な統治でなんとか政権を保ってきたアサド政権が崩壊したことで、シリア国民の間には変化への期待が広がっている。
バッシャール・アル・アサド前大統領は2000年に父のハーフィズ・アル・アサド氏の後を継いでシリアの大統領に就任。以来、同国は50年あまりにわたってアサド一家の支配下に置かれてきた。長年の”独裁政権”が終わりを迎えたとあって、シリアはいま祝賀ムードに包まれているが、これによってシリア情勢は安定へと向かうのか国際社会は固唾をのんで見守っている。
画像はハーフィズ・アル・アサド氏
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13年間におよぶ内戦の中、しぶとく持ちこたえてきたアサド政権をわずか12日間で打倒してしまった反政府勢力。しかし、この反政府勢力はさまざまな組織の連合体であり、今後も連携して新政権の運営に当たることができるのかが焦点となる。
今回の政変を主導したのは、シリア北西部にあるイドリブ県を過去6年間にわたって支配してきたイスラム過激派組織「シャーム解放機構(HTS)」だ。
HTSはアルカイダ系の組織であり、国際社会からはテロ組織だとみなされている。しかし、同組織を率いるムハンマド・アル・ジャウラニ氏は国際社会における地位を勝ち取るため、穏健派のイメージを打ち出そうとしている。
また、HTSは打倒アサド政権という目標を達成するため、複数の反政府勢力を糾合した上で、事を起こしていた。
今回、HTSに協力した勢力としては、シリア北東部のクルド人主体の反政府組織で、米国の支援を受ける「シリア民主軍」がある。
さらに、トルコの支援を受ける「シリア国民軍」や、ドゥルーズ派をはじめとするシリア南部の反政府勢力もHTSに加勢した。
イスラエルのニュースサイト「Ynetnews」によれば、シリアのドゥルーズ派勢力を率いるシェイク・ロアイ司令官は「今、私たちは喜びに満ちています。私たちは長年、この瞬間を待ち望んでいました」とコメントしたそうだ。
同司令官はさらに、「私たちの地域はようやく、アサドの悪政から解放されたのです」とした。この部隊はHTSと連携し、アサド政権に対する軍事行動を起こしたとのこと。
画像はアサド前大統領
一方、シリア人ジャーナリストのマリク・アル・アブデ氏は『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、次のように語っている:「高揚感や誇り高い気分の一方で、暴力の再発を警戒する気持ちもあります。あまりに出来過ぎていますからね」
同氏はさらに、「しかし、ビジョンがあるのは間違いありません。HTSとジャウラニ氏はとても慎重にロードマップを提示しており、多くの人々は胸をなでおろしています」と付け加えた。
一方、アサド政権で首相を務めていたムハンマド・ガーズィ・アル・ジャラリ氏は首都ダマスカスに留まり、円滑な政権移行に協力するという声明を出した。
画像:Sky News(スクリーンショット)
一方のアサド前大統領は、10年あまり前から同氏の後ろ盾となってきたプーチン政権に保護される形でロシアに亡命。
プーチン政権はアサド政権を支える見返りとしてシリア領内の地中海沿岸部にロシア軍基地を設置し、中東でのプレゼンスを保ってきた。
しかし、アサド政権の崩壊によって、中東におけるロシアのプレゼンスは揺らぐ可能性がある。さらに、シリア領を利用して軍事訓練やヒズボラに対する支援を行っていたイランもまた、大きな痛手を受けることになるだろう。
そのような中、米国のトランプ次期大統領は「これはわが国の戦いではない」と述べ、シリア情勢に干渉しない姿勢を明らかにした。しかし、『ガーディアン』紙によれば、ロシアやイランがこのような不干渉路線をとる可能性は低いとのこと。
同紙いわく:「(ロシアとイランは)シリア国民にとっての利害はそっちのけで、自分たちに有利な新秩序を形作ろうと試みるはずだ」
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