まるで楽園:ギャングが改装を重ねたベネズエラ刑務所の実態とは
美しいカリブ海やミス・ユニバースの常連、落差世界一の滝といったイメージで語られることが多いベネズエラだが、ギャング大国という暗い側面も持ち合わせている。
反米左派のニコラス・マドゥロ政権は人権抑圧もいとわない強権的な政策で治安回復を目指しているが、犯罪組織の一掃には程遠いようだ。
ベネズエラのギャングたちはビーチやアマゾン、大都会から片田舎に至るまで、全国各地で勢力を広げている。『ニューヨーク・タイムズ』紙やフォックス・ビジネス放送、ロイター通信といったメディアが伝えるところによれば、刑務所でさえ例外ではないというのだから驚きだ。
なかでも際立っているのはアラグア州にあるトコロン刑務所だろう。通常、刑務所といえば政府が運営しているものだが、この刑務所はギャングたちの支配下にあったのだ。一帯を牛耳るのは「アラグア州の列車(Tren de Aragua)」と呼ばれる巨大な犯罪組織だ。
80年代初頭に建設されたこの刑務所の規定収容人数は750名。ところが、2016年には7,000人を超える囚人が収容されるなど、極度の定員オーバーに陥ってしまっていた。
写真:Matthew Ansley / Unsplash
しかし2023年、ベネズエラ政府はついにトコロン刑務所の奪還に乗り出す。1万1,000人規模の治安部隊が動員され、施設はようやく当局の管理下に戻ったが、隊員たちがそこで目にしたのは驚くべき光景だった。
トコロン刑務所に突入した治安部隊メンバーたちは一体、何を目撃することになったのだろうか? 受刑者たちが作り上げたギャングの楽園の実態をご紹介してゆこう。
写真:Runrun.es via BBC
ジャガーやフラミンゴをはじめ、異国情緒あふれる動物たちが暮らす動物園。受刑者たちはさぞ動物好きだったのだろう。
写真:Zuoqi Liu / Unsplash
常夏の国、ベネズエラ。囚人といえどプールくらい楽しみたいのだ。
写真:@AlertaMundial2 / Twitter
トコロン刑務所の受刑者たちはレストランのテラス席でファストフードに舌鼓を打つことができた。もちろん、テイクアウトも可。一体どこへ持ち帰るのか、一般人には想像もつかないが……
驚くべきことにトコロン刑務所には一般市民の居住区が併設されており、受刑者でない人々が暮らせるようになっていた。AFP通信の取材に応じた地元女性、グラディス・エルナンデスは「そこで暮らしていたのですが、(当局に)追い出されてしまいました」と答えている。
トコロン刑務所の敷地面積は116ヘクタール。誰だって徒歩で移動したくないのだ。そこで、受刑者たちの快適なドライブのため、バイク販売店が登場したのは自然な流れだった。
受刑者たちに混ざって一般市民も暮らしていたのだから、子供たちの遊び場があるのは当然だ。
写真:@AlertaMundial2 / Twitter
トコロン刑務所では金融テクノロジーも最先端だ。囚人たちはマイニング用のコンピューターを導入し、仮想通貨事業を展開していたのだ。いやはや。
刑務所内のセキュリティが重要なのは言うまでもない。しかも、高価なバイクやコンピューターまであるのだ。一般的な刑務所と違うのは、犯罪者たちがその任に当たっていたということだけ。
トコロン刑務所は、まるで映画『ショーシャンクの空に』のごとく、5キロメートルにおよぶトンネルでシャバとつながっていた。
そのため、この刑務所の囚人たちは自由に外出することができた。カフェやショッピングに出かけたり、ビーチを訪れたりとやりたい放題だったわけだが、外の暮らしよりも塀の中の方が充実していたので脱走する者はいなかったようだ。
写真:Venezuela Nacional Police
ベネズエラで「トーキョー」というと、それは日本の首都のことではない。最先端のネオンが輝くナイトクラブのことだ。世界的なDJが集う中、お酒やドラッグにうつつを抜かす人々…… どこにあるのかといえば、もちろんトコロン刑務所内だ。
写真:Runrun.es
レストランで食事したりナイトライフを楽しんだりバイクを購入したりするには現金が不可欠。必然的に、ATMが刑務所内に設置されることとなった。
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ベネズエラでも野球は人気スポーツの1つ。トコロン刑務所の受刑者たちも野球場なしでは満足できなかったのだろう。地元紙『El Nacional』によれば、この野球場はベネズエラの一般的なスタジアムより設備が充実していたという。
写真:@AlertaMundial2 / Twitter
ベネズエラ紙『Diario 2001』のオンライン版によると、一部の囚人たちはトコロン刑務所内にカジノや酒屋、精肉店まであったと証言しているらしい。ジャーナリストたちはその事実を確認できなかったとしているが、何でもありのトコロン刑務所ならあながちウソではないかもしれない。
写真:Runrun.es
ベネズエラのニュースサイト「Runrun.es」の取材に匿名で応じた人物によれば、刑務所内にはギャングのボスが経営する「銀行」があったという。その目的は、人々から巻き上げた「みかじめ料」を管理することだ。
写真:Eduardo Soares / Unsplash
受刑者たちは刑務所を仕切るギャング「アラグア州の列車(Tren de Aragua)」に身の安全を保障してもらうため、「大義(La Causa)」と呼ばれるみかじめ料を支払っていた。
また、プレミア料金を支払った囚人たちには、マットレスやプライバシーが確保できる独房などがあてがわれたという。
画像:'Prison Break' / FOX, Getty
トコロン刑務所を牛耳っていたのは、”ニーニョ・ゲレーロ”ことエクトル・ゲレーロ・フロレス率いる犯罪組織「アラグア州の列車(Tren de Aragua)」だ。このギャングはボリビアやコロンビア、ブラジル、エクアドル、チリ、ペルーといった近隣諸国にも手を伸ばし、広範囲で暗躍している。
写真:ベネズエラ当局が公開した顔写真
地元紙『El Nacional』によれば、首領のエクトル・ゲレーロはトコロン刑務所を支配している間、毎年300万ドルあまり稼いでいたと見られている。
刑務所が当局に奪還された今、ゲレーロは逃亡中で警察の指名手配を受けているという。
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