朝鮮半島で悪化を続ける南北関係:ごみ風船、批判放送の再開、南北軍事合意停止…
世界情勢に影響しかねない、新たな国境問題が浮上しつつある。北朝鮮と韓国の関係は以前から不安定だったが、昨今北朝鮮の側から発せられているシグナルは懸念を深めさせるものばかりとなっている。
韓国と北朝鮮の関係はここ最近悪化の一途をたどっている。最近では、北朝鮮が韓国に向けてごみ袋のついた風船を飛ばし、ソウルを含む市街地に汚い残骸が散乱するという事態も起こっている。
風船につけられていたごみはペットボトルや紙くず、たばこの吸い殻、壊れた靴、ぼろきれ、そして汚物までもが含まれていた。
これは決して笑い事ではない。北朝鮮による汚物風船攻撃は、韓国の脱北者団体が北朝鮮に向けて撒いた体制批判ビラに対する報復とみられているのだ。
韓国から送られたのは体制批判ビラだけではない。韓国から脱北者団体が飛ばした風船には、北朝鮮では禁じられているK-POPや韓国ドラマのデータが入ったUSBメモリも収められていたという。AFP通信が報じている。
体制批判ビラの散布は国境周辺地域の住民への影響も大きく、北朝鮮との関係改善を模索していた韓国政府によって2020年に禁止されたことがある。だが、その法律は表現の自由を制限しているとみなされ、2023年に憲法裁判所で違憲判決が出ている。日経新聞が報じている。
ここ数ヶ月、北朝鮮は実弾を使った射撃訓練を行ったり、国連に禁止されている弾道ミサイルの発射実験を強行したりしている。
ミサイル発射実験は金正恩総書記の監督の下で執り行われた。とはいえ、北朝鮮が国連によって禁止されている核開発を進めようとするのは今に始まったことではない。
こういった一連の事態を受け、韓国側からも報復が試みられた。まずは北朝鮮側に向かってスピーカーを用いたプロパガンダ放送が行われた。放送が行われるのは2018年以来で、同年に開かれた南北首脳会談のあとは緊張緩和のしるしとして休止されていた。
だが、6年の休止ののち放送がついに再開されるに至った。韓国軍合同参謀本部はこの放送について、韓国の発展やいまの文化、それとは対照的な「北朝鮮の真実の姿」を伝えるものだとしているという。CNNが伝えている。
The Daily Digest をフォローして世界のニュースをいつも手元に
2018年9月に結ばれた南北軍事合意はすでに北朝鮮の側が一方的に破棄を宣言しているが、今月、韓国国家安全保障会議でも全面的停止が決定された。読売新聞が報じている。
南北軍事合意は緊張緩和を目的としたもので、非武装地帯周辺に飛行禁止区域を設定するなどの内容が織り込まれていた。
北朝鮮は非武装地帯を通る東海線鉄道の同国側線路を撤去しようともしており、これもまた関係悪化の兆候とみなされている。聯合ニュースが報じている。
もちろん、韓国と北朝鮮の問題は今に始まったことではない。朝鮮半島は第二次世界大戦終戦時に米ソによって分割統治され、以降朝鮮戦争などを経て現在まで分断が続いている。
その朝鮮戦争は1950年から1953年にかけて戦われた。軍民合わせて最大600万人もの死者を出したこの戦争は、最終的に北緯38度付近の軍事境界線を事実上の国境とする朝鮮戦争休戦協定をもって終結したが、領土問題など解決しない問題も多く、いまだ平和条約は締結されていない。
ここ10年ほどの南北関係は接近と反発を繰り返していた。だが、昨今の関係悪化は2021年に金正恩総書記が現在の地位に就く以前まで遡ってもめずらしい水準だ。
2022年に就任した韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領もまた、強硬な立場をとっている。南北間に平和が訪れる日は来るのだろうか。