環境に優しい遺体処理法「水火葬」とは:液体をつかって骨だけに

その時が来たら、遺体処理はどうする?
多くの場合は火葬か土葬
「水火葬」という遺体処理法
「液体を使って遺体を骨だけに」
アルカリ加水分解とは
アルカリ水溶液で遺体を分解
高温と低温の2種類
高温なら4~6時間で分解終了
水火葬が環境に与える影響
火葬のCO2排出量は245キログラム
環境汚染に通じる土葬やエンバーミング処置
環境への負担が大きい従来の埋葬方法
遺体処理に必要なエネルギー消費量は火葬のわずか10%
遺体を自然な形で土に還す
薬剤や防腐剤も分解可能
遺骨と液体しか残らない
分解後の液体は下水道に流しても安全
遺体が分解されて排水溝に流されることに抵抗感が?
2023年、英国最大の葬儀業者が「水火葬サービス」を提供開始
南アフリカ、米国、カナダで「水火葬」は合法
南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教も採用
「水火葬」を望む?
その時が来たら、遺体処理はどうする?

自分にその日が訪れたら、遺体処理をどうするか決めている方はどのくらいいるだろうか。少々気の滅入る問いかもしれないが、これは現実問題としてだれもが考えるべきテーマだ。

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多くの場合は火葬か土葬

ちなみに現在、遺体の処理方法は世界的に火葬あるいは土葬の2つに大別されている。

 

「水火葬」という遺体処理法

火葬や土葬のほかに、環境にやさしい新たな遺体処理法のひとつとして「水火葬」がある。これは文字通り「水で火葬する」ことで、『スミスソニアン』誌によれば、「アクアメーション」あるいは「アルカリ加水分解葬」(レゾメーション)とも呼ばれている。専門家でもなければあまり耳慣れない言葉だが、いったいどんなものなのだろうか。

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「液体を使って遺体を骨だけに」

欧州のニュース専門局「ユーロニュース」は遺体処理法に関するレポートの中で、「アクアメーション」について簡潔な定義を行っている。それによれば、「液体を使って遺体を骨だけにする方法」だという。

アルカリ加水分解とは

『スミソニアン』誌にはさらに、専門家による解説も掲載されている。説明を行ったのは世界最大の遺体処理用アルカリ加水分解装置メーカー、「バイオレスポンス・ソリューションズ」社の研究者兼副社長のサマンサ・シーバーだ。

 

 

アルカリ水溶液で遺体を分解

同氏によれば、「水火葬」を行うにはまずステンレス製の容器を水とアルカリ溶液で満たし、そこに遺体を入れることだという。続いてこの液体を加熱すると、遺体はアミノ酸やペプチド、糖分や塩分といった化学成分に分解されて骨だけが残るというわけだ。

写真:screenshot YouTube from The Mortuary Channel

高温と低温の2種類

シーバー氏によれば、「アルカリ加水分解法」と呼ばれるこの方法は、処理温度の高低により2種類があるという。低温の「アクアメーション」では液体の温度を沸騰寸前で維持し、化学分解が終わるまで1416時間かかるという。

写真:2022622日、南アフリカ・プレトリアの「Avbob Preparation Centre」に新設された水火葬施設

高温なら4~6時間で分解終了

高温の「水火葬」の場合、アルカリ水溶液は149℃まで加熱される。水温が高いほど圧力がかかり、分解プロセスも早まるため遺体は46時間で骨だけになるという。

写真:20191214日、カナダの「ニューカッスル葬儀社」代表トレバー・シャルボノー氏と同社のアルカリ加水分解機

水火葬が環境に与える影響

分解処理後に残る骨はさらに細かい粉状に砕かれ、骨壺に入れて遺族の手に渡される。だが、水火葬が環境に与える影響は、従来の遺体処理とどう違うのだろうか。関係者が語る通り、ほかの方法よりもエコロジカルなのだろうか。

火葬のCO2排出量は245キログラム

前述の「ユーロニュース」によれば、現在多くの国で採用されている火葬では、一回あたり約245キログラムの二酸化炭素が排出されるという。これはスマートフォンの充電2万9,000回以上にあたる排出量だ。

写真:By Georg Lippitsch - Own work, CC BY-SA 4.0, Wikimedia Commons

環境汚染に通じる土葬やエンバーミング処置

また、伝統的な土葬も環境に優しいとはいいがたい。棺桶に使われるさまざまな素材や墓の土台を成すコンクリーは、時間とともに分解されれば土壌汚染につながる可能性がある。また、遺体の消毒や保存を目的としたエンバーミング処置で使われる化学物質が、地下水や土壌に汚染を引き起こす可能性もあるためだ。

写真:By Stanwell Burial Ground by Marathon, CC BY-SA 2.0, Wikimedia Commons

環境への負担が大きい従来の埋葬方法

『Berkeley Planning Journal』誌に掲載された論文「Landscapes of the Dead: An Argument for Conservation Burial」では、従来の埋葬方法によって環境にもたらされる影響が論じられている:「米国では、従来型の埋葬方法による遺体とともに土に埋められる化学物質や資材の量は、年間で木材が約3,000万ボードフィート、ブロンズが2,700トン、鋼鉄が10万4,272トン、鉄筋コンクリートが163万6,000トンとなっている」

写真:By United States Naval Academy Photo Archive - 151211-N-TO519-163, Public Domain,

遺体処理に必要なエネルギー消費量は火葬のわずか10%

水火葬の利点は、遺体処理に必要なエネルギー消費量が火葬のそれのわずか10%に過ぎないことだと『スミソニアン』誌が指摘している。また、アルカリ加水分解に使われる装置は化石燃料ではなく電気で稼働するため、直接的な温室効果ガスの排出はないというわけだ。

 

遺体を自然な形で土に還す

アルカリ加水分解の専門家であるサマンサ・シーバー氏は『スミソニアン』誌に対し、「水火葬」は遺体を自然な形で土に還せるほか、意外な利点もあるという。

薬剤や防腐剤も分解可能

同氏によれば、「遺体に化学療法で使われた薬剤等が含まれていたとしてもこれを分解できるほか、遺体に防腐処理が施されている場合は防腐剤そのものの分解も可能です。そのため環境汚染を抑えることができるのです」

写真:a water cremation machine used for pets in the Netherlands.

遺骨と液体しか残らない

「アクアメーション」の実施に必要な電気およびその後に残る遺骨を除けば、遺体を溶かした液体しか残らないということになる。

分解後の液体は下水道に流しても安全

『スミスソニアン』誌によれば、1990年代後半、研究者たちは遺体をアルカリ加水で分解した後に残った液体は、公共の下水道に流しても安全であることを突き止めた。しかも、下水管理機関はこの液体が汚水処理に有益ですらあるらしいのだ。

写真:Scott Rodgerson on Unsplash

遺体が分解されて排水溝に流されることに抵抗感が?

では、なぜこの遺体処理法が広く採用されないのだろうか。専門家によれば、自分の遺体が分解されて排水溝に流されることに多くの人が抵抗を感じているからだという。とはいえ、こうした心理的障壁は徐々に取り除かれつつあるようだ。

写真:Geetanjal Khanna on Unsplash

2023年、英国最大の葬儀業者が「水火葬サービス」を提供開始

2023年、英国最大の葬儀業者が「水火葬サービス」の提供を始めることを発表したとBBCが伝えている。2023年にはアイルランドも初の水火葬施設を完成させたほか、ベルギーとオランダでも水火葬を導入すべく法規定の見直しが行われている。

南アフリカ、米国、カナダで「水火葬」は合法

また、南アフリカ、米国の約半分、カナダの約半分で「水火葬」が認められている。米国で認められているのは50州のうち26の州、カナダは5つの州と準州(サスカチュワン州、オンタリオ州、ケベック州、ニューファンドランド・ラブラドール州、ノースウェスト準州)で合法化されている。

南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教も採用

実際、2021年に死去した南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教は環境に優しい葬儀として「水火葬」を選択。それもあって、この遺体処理法はより広く知られるようになった。

写真:Port of San Diego from San Diego, CA - Nobel Peace Prize Winner Desmond Tutu Sails the World — Then Talks About It, CC BY 2.0, Wikimedia Commons

「水火葬」を望む?

さて、あなたは自分の遺体を「水火葬」にすることを望むだろうか? それとも従来の火葬や土葬を選択するだろうか。ともあれ、いつか火葬や土葬という選択肢はなくなり、遺体処理方法の「ニューノーマル」として「水火葬」という一択しかなくなる日が訪れるかもしれない。

写真:santosh verma on Unsplash

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