軍事費が膨張しインフレが加速するロシア経済:「武器もバターも」は非現実的?
ロシアで主食となっているのははパンだが、そのパンにバターをつけるのは相当な贅沢になりつつあるかもしれない。ロシア連邦国家統計庁によると、バターは今年だけで少なくとも25%も値上がりしているのだ。
プーチン大統領は国民に対して、ウクライナ侵攻を行っても経済が破綻することはなく、「武器」も「バター」もともに十分な量を供給すると約束していた。その約束はいったいどれほど守られているのだろうか。
『ザ・モスクワ・タイムズ』紙によると急速に値上がりした影響で万引きも増えているとされ、バターをプラスチック製のケースに入れて厳重に守るスーパーも出てきているという。
急激に値上がりしている食料品はバターだけではない。同じく主食のひとつとなっているジャガイモも、今年初めからなんと56.4%も値上がりしたという。
ロイター通信によると、他にも牛乳や燃料などが大きく値上がりしたとされる。
同通信の取材に対し、ある買い物客はこう語っている:「バターは毎日の朝食に必須です。牛乳とチーズ、ソーセージ、卵、パンも買います。それだけで1,500ルーブル(約2,350円))にもなるんですよ。とても高いです。どうしてこんなに値上がりしているんでしょうか」
しかし、GDP比6.3%にして国家予算の3分の1という巨額の軍事費を考えれば、ロシアにおける生活費の高騰は驚きとは言えない。
軍事費の額は2025年度予算では25%増額され13兆5,000億ルーブルに達し、冷戦後最高水準となっている。
むしろ、これほどまでの額をウクライナ侵攻に費やしながらも、ロシア経済がいまだに好調を保っている事のほうが世界にとっては驚きの的となっている。
2022年にプーチン大統領がウクライナへの全面侵攻を開始すると、西側諸国はロシアへの経済制裁を決定した。これによって2兆ドル規模とも言われたロシア経済は崩壊するとみられていた。
だが、実際はロシアの経済成長はアメリカ合衆国やヨーロッパの大半の国を上回り、戦時経済への転換を果たした。ユーロニュースが報じている。
ロシアはエネルギー市場や金融市場をまとめ上げ、中国を筆頭とする東側の同盟国との関係を深めた。中国は、ロシアが東シベリア・太平洋パイプラインを経由してアジア太平洋地域へと原油を販売するのを手助けした。
とはいえ、そんなロシア経済の命運も尽きようとしている。中央銀行の利率は21%にまで上昇し、今年のインフレ率は8~8.5%になると見積もられているのだ。
ゴールドマン・サックス前チーフ・エコノミストのジム・オニール氏のように、現在のロシア経済は持続不可能だとする専門家は多い。
オニール氏はロイター通信にこう語っている:「これもすべてはロシアの膨大な軍事費のせいです。中長期的な展望は暗いと思いますね」
ロシアの専門家も、自国が「成長なきインフレ」に入ったという警告を出している。『ザ・モスクワ・タイムズ』紙によると、連邦中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁も「経済を機能させるためには、より抜本的な改革が必要だ」と述べたという。