「有給を取り放題」にした企業:従業員の反応は?
勤め先でいくらでも有給休暇を取ることができたらどうだろう?オフィスワーカーにとってはまるで夢物語に聞こえるが、その実情を調査した専門家によれば、「取り放題の有給」は意外に利用されない傾向にあるようだ。
近年、テック大手を始めとしてさまざまな企業が「有給休暇取り放題」制度の導入をすすめている。オンラインメディア「ビジネスインサイダー」によれば、マイクロソフトやゴールドマン・サックスがその筆頭だ。
しかし、米人事ソフトウェア会社Namelyの調査によれば、従業員は無責任あるいは怠惰と思われたくないという心理的プレッシャーから、制度のフル活用に踏み切れないようだ。この仕組みを利用したとしても、正当な権利として「休暇を取っている」というよりも、余計な「借りをつくっている」という感覚になるらしい。
実際、同社が米国企業を対象に調査を行ったところ、有給日数が定められている企業では取得日数平均が年間15日だったのに対し、「取り放題」の企業では年間13日という結果が出たのだ。
同社によれば、有給日数に制限が課されていない企業では、さまざまな仕事を前にして従業員が自分から休暇をセーブすることが多いという。
こうした現象に関し、米ビジネス誌「Inc.com」のライターであるジェフリー・ジェームズは、「有給休暇取り放題」は「世紀の詐欺」だとしている。
「これは素晴らしい仕組みに聞こえるが(「1カ月まるまる休めるなんて最高!」という声が聞こえそうだ)、有給休暇を活用することがある種のプレッシャーとなり、人びとを長時間労働へと駆り立ててしまう」と同氏は分析。
ジェフリー・ジェームズはさらに、この制度のおかげで従業員の自由時間が増えたように見えるが、実際には、だれがいちばん休暇を取らずに働いたかを競わせることになると指摘した。
企業には通常ボーナスや昇進規定が定められており、従業員としては取得した休暇日数が少なければ少ないほど、そうした賞与の対象とされる確率が高まるのではないかと考えざるを得ないというのだ。
職場の同僚が休暇を取らないのに自分だけが休暇を取れば、上司から「協力的ではない」というレッテルを貼られるかもしれない。これは極端な長時間労働を求めるのと同じことになると、「Inc.com」のジェフリー・ジェームズは批判している。
こうした点について、BBCは「有給休暇取り放題」を導入した企業の従業員にインタビューを行った。それによれば、取り放題という仕組みは従業員の間に「不安感やストレス、さらには混乱を生み出す」という答えが返ってきたという。
つまり、従業員が効果的に休暇を取るためには、上司が従業員に対して休暇を取るよう奨励したり、適切な休暇の取り方を伝えたりする必要があるというのだ。
オンラインメディア「Thrillist」によれば、同僚や上司といったまわりの人々の見方や意見が大きな影響をもたらすほか、休暇を取りすぎる人や、繁忙期に休みを取る人にマイナスイメージが付くことも判断を左右するという。
では、「有給休暇取り放題」は本当に「詐欺」まがいの制度なのだろうか。そう考える人は多いようだが、一部の専門家は「職場環境が整っていればうまく機能する」と指摘している。
米誌『フォーブス』によれば、企業にしっかりとしたリーダーシップとビジネス文化があり、従業員の間に協力的で組織だった関係があれば、「有給休暇取り放題」は理想的なシステムとして機能するという。
さらに、リーダーによる適切なガイダンスの元で、各従業員が自分に与えられた役割と同僚の役割やニーズをきちんと把握していれば、有給休暇が無制限という制度もうまく運用されるだろうと『フォーブス』誌は結論付けている。つまり、すべては職場環境次第ということのようだ。