「マクガイバー式戦術」でロシア軍に立ち向かうウクライナ
80年代の人気ドラマ『冒険野郎マクガイバー』は、手近にある材料やアーミーナイフを武器に機転を利かせて敵を打ち負かす痛快アクションだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙はこの作品に言及しつつ、軽兵器の力を最大限に引き出して善戦を続けるウクライナ軍について「マクガイバー式戦術」を取っていると解説した。
ウクライナの戦いぶりをかつてのTVシリーズになぞらえたのは、米欧州陸軍のフレデリック・ベン・ホッジス元司令官だ:「人々の間で(ウクライナ軍が)『マクガイバー』に喩えられている」
ウクライナ軍はロシア軍ほど強力なミサイル発射装置を有しておらず、武器は小型で射程距離も短い。だが、そうした武器は軽くて持ち運びが容易というメリットもある。ウクライナ側はそうした特徴を最大限に活かしているのだ。
トラックや小型船舶にミサイルやロケットを搭載して運ぶという単純な方法で、ウクライナ軍は敵に多大な損害を与えることに成功した。速攻を仕掛け、迅速に退却し、ロシア軍の前進を阻んでいるのだ。
こうした戦略により、ウクライナはいくつもの戦局で勝利を収めてきた。たとえば、小型船による急襲により防衛線を砕かれたロシア軍は、戦略的拠点である黒海のズミイヌイ島(スネーク島)から撤退せざるを得なくなった。
強大な海軍力を有しているにもかかわらず、ロシア軍はウクライナ南部オデッサを占領できずにいる。その原因のひとつが、迅速な攻撃と撤退を繰り返すウクライナ軍の戦い方だ。
だが、「マクガイバー方式の戦い」による最大の戦績は、ロシア艦隊の旗艦「モスクワ」(画像)をウクライナ軍が"自前"装備で攻撃し、沈没させたことだろう。
画像: Mil.ru 著、CC BY 4.0、https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=41914316
米欧州陸軍のフレデリック・ベン・ホッジス元司令官は『ニューヨークタイムズ』紙に対し、ウクライナは対艦ミサイルの独自開発を行い、それをトラックの荷台に積んで海岸沿いに移動、有利な地点から敵軍への攻撃を可能にしたと語った。
ウクライナ軍が強大なロシア軍戦力の封じ込めに成功したもう1つの主な要因は、ドローンだ。
ロシアの対空部隊がドローン攻撃を阻止できなかったことには米軍も驚き、ウクライナ軍はきわめて高度なドローン操作によりロシア軍の裏をかいたのではないかとしている。
ロシア軍の従来型の武器や戦略に対し、ウクライナ軍の「マクガイバー方式の戦い」は大きな成果を挙げている。そして現在、ロシア軍の後方拠点への攻撃も行われている。
BBCは、パルチザン型の戦いを繰り広げる「影の軍団」に言及。これはロシア軍が占領する地域に潜入し、後方からの攻撃を支援するグループだ。
ロシアは占領地域の拡大に苦労しており、オデッサも陥落に至っていない。こうした事態を前にプーチン大統領は8月、黒海艦隊の司令官を交代させた。
ゼレンスキー大統領はウクライナ軍が領土を回復しつつあると力を込める。しかし、ロシア軍は戦争の長期化に十分に対応できるような強大な軍事力を有していることは、無視できない事実だ。
ウクライナ軍が今後も機転や創意工夫で対処を続けられるかどうかは明らかではない。実際、戦争により毎日数多くの命が犠牲になっている。
身近な材料から考えられないような仕掛けをつくりだすマクガイバーは、ロシア軍に対するウクライナ軍の果敢な活躍を思い起こさせる。本来、そうした機知は平和な生活で活かされるべきなのだが。